「これなら、ほかの色も普段使いできそうですね。コフレ両方とも、お願いします」
「ありがとうございます」

 その言葉を聞いた瞬間、塩見くんと目を見合わせる。手が触れるだけでドキドキすることも忘れて、小さくハイタッチしていた。きっと私は、喜びがあふれるのを隠しきれない笑顔をしていただろう。

 会計に移ったお客さまが、「あの」と遠慮がちに声をかける。

「この色のグロスだけ、別売りで出たりしないんですか? コフレのぶんが終わっても、また使いたくなりそうで」

 思わず、横にいる塩見くんを見つめながらバンバンとその腕を叩いていた。

「大丈夫です、僕にも聞こえてました。よかったですね」

 無言で何度も首を縦に振る。塩見くんは苦笑しながら、私の荒ぶる手をそっと掴んだ。

「要望が多ければ、新色で出ることもありますよ。本社の人がいらっしゃったら、お伝えしておきますね」

 美容部員さんはそう返しながら私をちらっと見て、いたずらっぽい笑みを浮かべる。私もそれに、親指を立てたポーズで応えた。

 今日のお客さまの笑顔も、美容部員さんのやりきった満足げな顔も、私は忘れないだろう。