「同じ百貨店に来るなんて偶然ですね、って言ったんです」
「ほんとにそうね。都内にはほかにもうちのコスメブランドが入ってる百貨店があるのに」
「先輩はどうしてここに?」
「私は、ここの美容部員さんが顔なじみだから……。塩見くんはなんで?」
「前にお話しした、姉のコンシーラーを買った百貨店が、ここなんですよ」
「えっ、そうだったの? 銀座の百貨店とは聞いていたけれど、ここだったのね」

 ちょっとの偶然が運命みたいに感じられて舞い上がりそうになるけれど、『いや、偶然は偶然だから』と自分に言い聞かせる。

 私たちは、お客さんを装ってコスメカウンターに近づくことにした。塩見くんも営業として顏が割れているらしいので、こっそりと。本社の人間が来ているとわかったら、お客さんが遠慮して生の声が聞けないかもしれないから。

 テスターを試すふりをしながら、お客さんと美容部員さんが話しているカウンターを横目で見る。美容部員さんはふたりとも接客中で、そのうちひとりのお客さまはクリスマスコフレのタッチアップをしていた。