「あ、営業の仕事で来てくれたのね? まだ、仕事が終わるには早い時間だものね」

 塩見くんの部屋で飲んでいるときはあんなに緊張していたのに、外では普通に話せる。笑顔が自然に作れる自分にびっくりした。

 そりゃあ、そうか。異性の部屋でふたりきりだなんて、塩見くんじゃなかったら警戒するようなシチュエーションを、彼の人柄のよさで落ち着く空間に変えていたようなものなんだから。

「そうじゃなくて……。仕事を早く終わらせて、プライベートで来ました。先輩の企画したコフレだから、気になっていたんです」
「えっ……」

 それは、どういう意味?
 言葉に詰まった私を見て、塩見くんは微笑みを浮かべた。

「ほら、餃子の話を聞いてアイディアが固まったって言ってたじゃないですか。勝手ながら、自分もお手伝いしたような気持ちになっていて」
「あ、そっか。そうだったわよね」

 ホッとしたような、残念なような。

「……それだけなわけ、ないじゃないですか」
「えっ、ごめん、なんて言った?」

 塩見くんから、穏やかな笑顔に似合わない低い声が聞こえた気がするんだけど、返ってきたのはいつもの塩見くんの声色だった。