「仕事終わった~! じゃあ、お先に失礼します」

 部署のみんなに挨拶して、退勤する。
 オフィスを出ると、冬のビル風がびゅう、と吹きつけてきて、コートの前をあわせた。

「うう、さむ」

 流行のチェスターコートはくすみピンクを選び、トレンドのキレイ色を取り入れている。裾からは光沢感のあるプリーツスカートを覗かせて、格好だけは『愛され冬コーデ』だけど、心は暖かくない。

 自分に自信が持てれば違うのかな、と思って自炊にチャレンジしてみたけれど、結果は悲惨なものだった。前回のようにボヤ騒ぎを起こさなかっただけマシなレベル。

 もういっそ告白なんてしないで、塩見くんとはいい飲み友達でいたほうがいいんじゃ、とも思えてきた。そうすれば傷つくこともないし、金曜日の大事な時間が失われることもない。

 でももし、塩見くんが後輩の子と付き合うことになったら。その子とは恋人にならなくても、そのうちだれかと付き合うことになったら。私はそのとき、なにもしなかった自分を後悔したりしないかな。

 気持ちが堂々巡りして、ずっと同じ場所をぐるぐる歩いている気分になる。