「油揚げをグリルで焼いていたらこうなったの」

 正直に答えると、彼は目を丸くした。信じられない、とでも言いたげなリアクションにむっとする。

「えっ、油揚げを? 本当にそれだけで?」
「しょうがないじゃない。料理なんてふだんまったくしないんだもの。油揚げを焼いただけのおつまみがせいいっぱいだったのよ」
「……そうなんですか」

 気の毒そうな瞳に憐みが含まれていると感じるのは、被害妄想だろうか。

「あ~あ。でも、その油揚げも黒コゲになっちゃったし。家で飲もうと思ってたのに、本当についてない……」

 思わずため息をつきながら肩を落とす。名前の知らない男の子は思案気な顔でうつむくと、ぱっと顏を上げた。

「だったら、うちで飲みませんか? おいしいおつまみ、作れますよ」

 予想外のセリフに、今度は私が目を丸くする。こんな醜態をさらしたあとなのに、宅飲みに誘われるなんて。しかも……。

「えっ、うち……って」
「隣の部屋なんです、僕の家」

 同じ階に住んでいることには薄々勘付いていたが、まさか隣だったとは。