「え?」
「告白されてたじゃない、社員旅行のとき」

 なぜ私はこんなにイライラしているのだろう。塩見くんはなにも悪くないのに。自分が勝手にぐるぐる悩んでいるだけで、それを塩見くんが知らないのは当たり前なのに。

 いつも通り、態度の変わらない塩見くんに当たってしまう。

「見られていたんですか」

 塩見くんの目が丸くなる。その表情から、私に話すつもりはなかったんだと気づいて、胸がズキンと痛む。

「そりゃあ、あんな目立つところにいたら……。それで、どうするの? 付き合うの?」

 聞き耳を立てていたことの言い訳をするのが気まずくて、ぶっきらぼうな口調になる。

「先輩、気にしてくれていたんですね」

 からかうような笑みを浮かべられて、ぼっと顔が熱を帯びる。

「そ、そんなことないわよ。ただ、彼女ができたら毎週宅飲みするわけにはいかないと思って……」
「そんなこと考えていたんですか。心配しなくていいのに」

 それは、どっちの意味? 酔っぱらった頭じゃ冷静になれない。

「あの子、女の子らしくてかわいかったじゃない。いいわよね、若い人は。私なんてアラサーだし、そんな浮いた話もないし」

 動揺しているのを悟られたくなくて、ぺらぺらと口が動く。ああ、こんなことが言いたかったんじゃないのに。私のバカ。

 泣きたい気持ちになっていると、塩見くんがふと真顔になってテーブルから身を乗り出した。

「――え」

 驚いて、身動きできずにいる間に、塩見くんの腕が伸びてくる。そして、唇の端に塩見くんの指が触れて、離れた。