「先輩? どうしたんですか? ドアの外で音がしていたのにチャイムが鳴らないから、心配で見に来たんですけど」
「あ、ご、ごめん。メールの返信してた」

 私は喉がからからになりながら、しどろもどろに返事をする。とっさにポケットからスマホを出したところ、見られてないといいけど。

「そうだったんですね。中に入ってからしてくれてよかったのに」

 いつものように、リビングのクッションに座った私を、塩見くんが意外そうな目で見つめる。

「今日、眼鏡じゃないんですね。服もいつもと違うし」

 今日はコンタクトもメイクも落とさないで来た。服もスエットではなく、ゆるめのニットとストレッチパンツという格好で、巻いた髪もハーフアップにアレンジしてある。社員旅行のときとそう変わらない、カジュアルスタイルだ。

「部屋着が洗濯中で……」

 考えてきた言い訳を口にするけど、そんなの嘘に決まってる。
 塩見くんのことが好きだと気づいたら、急に干物女な格好で会うのが恥ずかしくなっちゃった、なんて、言えるわけない。

「ここのところ、天気悪いですもんね。じゃあ、ちゃっちゃとおつまみ作っちゃいますね」
「あ、待って。これ……」

 道の駅のロゴが入ったビニール袋を、塩見くんに渡す。