「いやあ、日向さんと飲めるなんて光栄だなあ。社内でも有名じゃないですか」

 私のそばに、前髪の後退しかかった男性がビールを持って寄ってくる。営業部の人だと記憶しているけれど、名前が出てこない。

「そうですかぁ? ありがとうございますぅ」

 ろれつの回らない口で返事をすると、男性は肩が触れそうな位置に座り、ねっとりした目で見つめてきた。

「でも実際、モテるでしょ?」
「ぜーんぜん! 私なんて女らしくないし、もうアラサーだし! モテないから、もう五年も彼氏がいないんですよー。ね、久保田!」

 けらけらと笑いながら、男性の膝をばんばん叩く。若干おびえた、というか引いた表情をしているのはなぜだろう。

 話を振られた久保田はぎょっとした顔で振り向き、少し離れた場所からすっ飛んできた。

「ちょ、先輩、酔っ払いすぎですよ!」

 べりっと男性社員から引き剥がされるが、まだ話し足りない。

「かわいげもないし、私なんて一生独り身ですよー」

 浴衣の袖をつかんでそう訴えたのだが、今度は憐みのこもった目で見つめられている。

「そ、そっか……。が、がんばってね……」
「ほ、ほら先輩。絡んでないで、あっち行きますよ!」

 久保田は私の両手をつかんで引っ張る。座った体勢のまま畳の上を引きずられているので、裾がめくれあがってパンツが見えそうだ。気づけ、久保田。