「ふー、おいしかった。やっぱり旅館のご飯はお膳よね」

 夕飯後。部屋に戻り、ぱんぱんに張ったお腹に手を当て、満足しながら息を吐くと、久保田がうなずいた。

「ほんと、お腹が苦しいくらいです。今回の宿、お風呂も広かったし当たりですよね」

 宴会場での夕食は、次から次へとお料理が出てくるコース料理のようなお膳で、お酌して回る余裕もないくらいだった。各テーブルに置いてあるビールを手酌で飲む様子だったから私もそれにならったのだけど、自分のペースで飲めてかえって助かった。

「あ、先輩。海老沢くんから同期グループにメッセージが来たんですけど、飲み足りない人たちが部屋に集まってるみたいですよ。同期だけじゃないからふたりで来ませんかって」
「部屋? どこの?」
「海老沢くんと塩見くんの部屋が四人部屋で広いそうなんです。あとふたり、営業の先輩もいるみたいで」

 塩見くんの部屋、と聞いてぴくりと肩が動く。それって、その場に塩見くんもいるのは確実じゃないか。

「そ、それ、私が行ったら場違いにならない?」

 塩見くんとは今回の旅行が初対面ということになっているし、久保田みたいに、同期仲間がいるわけでもないし。