「あ、そうだ。あと、これもよかったらどうぞ」

 スポーツドリンクに口をつけたのを確認した塩見くんが、浴衣の袖口に手を突っ込む。
 ごそごそとあさったあと袖口から取り出して、塩見くんがガラステーブルに置いたのは、パックのいちごミルクだった。

「売っていたから、買ってきちゃいました。袖の中に隠しておいて、こっそり渡すつもりだったんですけど。先輩、好きですよね?」
「……なんで知ってるの?」

 たしかに、いちごミルクは私のひそかな好物だ。私のイメージじゃないし、かわいこぶってると思われるのが嫌で、周囲に話したことはないのに。

「秘密です」

 困惑しながら、いたずらっぽく微笑む塩見くんを見つめる。なにかが頭の片隅に引っかかって、思い出そうとしたけれどダメだった。私はなにか、大事なことを忘れているのではないだろうか。

 塩見くんにもらったいちごミルクは、甘いはずなのに、なんだか甘酸っぱい味がした。