「……行っちゃいましたね」

 ぽかんとしている久保田と顔を見合わせていると、海老沢くんが「だったらここは、塩見にまかせたほうがいいのかな」とぽつりとつぶやく。

「なに? なんか言った?」

 久保田には聞こえていなかったようで、海老沢くんは虚空を見つめながら「あー、えっと」と言い訳をひねりだしている。

「あー、そうだった。ゲームコーナーで同期のやつらが卓球やってるけど、俺たちはどうする?って言ったの」
「あ、ほんと? 行く行く。先輩、ひとりでも大丈夫ですか?」
「ああ、うん。ここで少し休んだら部屋に戻ってるから」
「了解しました。私も夕飯までには戻りますね」

 ふたりは連れ立ってゲームコーナーの方角に向かっていった。きっと海老沢くんは、塩見くんが私のことを『憧れの先輩』なんて言ったから気を遣ってくれたんだろう。

「あれ? 海老沢と久保田さんは?」
「海老沢くんが卓球に誘って連れていったわ。彼、塩見くんに気を遣ったみたいよ」
「え、そうなんですか。……あいつ、余計なことしなくていいのに」

 その言葉に胸がズキン……と反響しながら痛む。
 塩見くんの心にいて、気にしているのは、告白をしてきた女の子なんだろう。私とふたりきりになるのは『余計なこと』だったんだ。