「あわわ、大変!」

 ゲホッゲホッと咳き込みながら、コンロの火をあわてて止める。引き出してみると、待ち焦がれた油揚げは黒コゲになっていた。

「ああ~……」

 煙が目に染みて涙目になりながら、がっくりと肩を落とす。そのとき、ドンドンドン、と玄関のドアが勢いよくノックされた。

 まずい、苦情だろうか。おおかた、ほかの部屋にも煙が入り込んでいたのだろう。
 注意されることを予想して、おそるおそる玄関に近づくと。

「日向先輩、大丈夫ですか!?」

 切羽詰まった、若い男性の声が聞こえてきた。

 なんで私の名前、知ってるの? それに『先輩』って呼ぶってことは、もしかして同じ会社の人?

「火事ですか!? ドア、開けられますか?」

 連続して叩かれるノックの音と呼びかけ。ほかの部屋の人に注目されるのを恐れて、ついついドアを開けてしまった。

 そこに立っていたのは、爽やかな水色ストライプのシャツ、青系のネクタイとグレーのスラックスに身を包んだ、見覚えのない男の子。

 細身でほどよく高めの身長、長すぎないさらさらの黒髪。控えめだけど整った顔のパーツがいかにも塩顔イケメン男子だ。こんな子、うちの会社にいたっけ。