「ここからなら会話が聞こえるかも。先輩、いったん止まってください」

 展望台の柵に寄りかかって、景色を眺めているふりをしているけれど、耳は大きくなって塩見くんたちのほうを向いている。私がうさぎだったら、聞き耳を立てているのが速攻でバレていただろう。

「――だから、考えてほしいの」

 女の子の、高い声が聞こえる。外見からイメージしたとおりの、かわいらしい声だった。
 答える塩見くんの声は低いせいか、風に流されてこちらまで届かない。

「――返事は、旅行が終わってからでいいから」

 でも、途切れ途切れな女の子のセリフだけでわかった。彼女が塩見くんに、真剣に告白をしていることに。

「久保田、戻ろう」

 興味本位で私たちが聞いていいものじゃなかった。塩見くんたちに背を向けて久保田の肩を押したのだが……。

「え、でも、終わったみたいですよ。話」
「えっ」

 振り返ると、ふたりはバラバラの方向に去って行くところだった。