「寒い。あったかい飲み物にしておけばよかった……」
「ええー、今日はまだあったかいほうじゃないですか」
「潮風が寒いのよ。みんなもう中に入っているじゃない」

 最初は展望デッキにいた社員旅行のメンバーも、ほとんどが暖を求めて屋内に引っ込んでいる。

「確かに、人は少なくなりましたけど。まだ何人かいるじゃないですか。……あ、塩見くんだ」

 久保田の視線の方向に頭を動かすと、展望デッキの端っこに立って、若い女の子と向き合って話している塩見くんがいた。

 ショートコートに膝丈スカートをはいた、お嬢様ルックっぽい女の子。セミロングの髪をふわふわに巻いて、ピンクのマフラーで口元を隠している。

「あの子、塩見くんのことを狙ってた、同期……」

 真面目な顔をして、久保田がぼそっとつぶやく。

「えっ」
「なんか様子がおかしいですよ。こっそり近くまで行ってみましょうよ」
「ちょっと、悪趣味よ」
「だって、気になるじゃないですか」

 結局久保田を止めきれず、私も一緒にこそこそと塩見くんに近づく。アイスを食べながら雑談しているふりをして、自然に。