「せんぱぁい。お菓子食べます?」

 カラオケで盛り上がるバスの中、隣に座った久保田がアーモンドチョコレートを差し出してきた。

「うん、ありがと。あ、私もチータラ持ってきたけど、食べる?」
「えっ……。それお菓子扱いなんですか?」

 ショルダーバッグからA四ファイルくらいの大きさのチータラパックを取り出すと、久保田が絶句した。
 ほかに酢昆布やジャーキーも持ってきたのだけど、このチョイスはまずかったのだろうか。

「私より、もうビール開けてる営業部のみなさんに持っていったほうが喜ばれそう」
「ああ~、そうね」

 バスの前方に視線を移すと、すでに赤ら顔で手拍子している男性社員が見える。その中には、ひとりだけドリンクホルダーにお茶を入れている塩見くんの姿も。

 私も本当はビールを開けたいのだが、バスの中で飲むと車酔いしやすいから自粛している。夜の宴会まで我慢だ。

「それにしても、せっかくメンズが多いからって期待してたのに、バスの座席も完全に分かれてるじゃないですか~」

 じっとりと目を細めながら、周囲には聞こえない声で久保田がぼやく。