* * *

「重い……」

 両腕にうず高く積まれたファイル。前もろくに見えずふらふら歩いている私を、非難と憐みの混ざった目で見ながら廊下を行き交う人が避けていく。

 資料室にファイルを戻すのを、一回で済まそうと思ったのが間違いだった。というかそもそも、誰かに『手伝って』とひと声かければよかったんだけど、私は自分の仕事を誰かに頼むのが苦手だ。というか、仕事に限らず人に頼るのがものすごく苦手なのだ。頼まれるのは得意なのに皮肉なものだ。

 自分にかわいげがないせいで、『手伝ってくれるわよね?』と訊いてもほぼ脅迫になるのでは、という心配もある。

 ふだんから、まわりの人や男性を頼りにできる女子っぽい性格だったらよかったのだけど、自分のこの女子力のなさも干物女たるゆえんなのだろう。

 ため息をついていったん足を止めたとき、急に腕がふわっと軽くなる。

「先輩、大丈夫ですか?」

 聞き覚えのある声がして顔を上げると、驚いた表情の塩見くんが目の前にいた。私の持っていたファイルのほとんどを引き取ってくれている。

「びっくりしました。廊下のむこうから資料の山を抱えた女の人が歩いてくると思ったら、先輩だったんですから」

 気づけば、営業部のあるフロアの近くまで来ていたみたいだ。