「ご、ごめんなさい」

 ぱっと身体を離したとき、名残惜しく感じてしまったのはなぜだろう。抱き締められてこんな気持ちになること、今までの彼氏にだってなかった。媚薬をかいだみたいに頭がくらくらしている。

「いえ。大丈夫ですか? ふらつくようなら支えていきますが」
「だ、大丈夫! ひとりで行けるから!」
「でも、顔も赤いですし」

 それは酔ってるせいじゃなくてあなたのせいです、なんて言えずに、「とにかく大丈夫!」と叫んで扉のむこうに小走りで向かう。

 リビングにつながる扉を閉めたあと、その場にずるずると座り込む。

「なにこれ……。反則でしょ……」

 こんなの、干物女には刺激が強すぎる。

「心臓、おさまるかな……」

 リビングに戻ったら、私は普通の顔をしていられるだろうか。

 ほてった顏をぱたぱたと手であおぐ。早く戻らなきゃと思うのに、塩見くんの腕にすっぽり包まれる感触が、なかなか消えてくれなかった。