軽口のシャンパンを、知らず知らずのうちに杯を重ねていたことに、トイレに行きたくなって気づいた。足を組み直して、もじもじと動かす。
 男性の家で借りるのは恥ずかしいが、いったん家に帰るのも不自然だ。背に腹は代えられまい。

「あの……、お手洗い借りてもいい?」
「もちろん、どうぞ」

 腰を上げながら尋ねると、爽やかに返されてホッとする。

「ありがとう。……あっ」

 酔ったせいで足がもつれて、立ち上がった瞬間にふらつく。このままじゃ、転ぶかテーブルに激突する――と思った瞬間、私はあたたかくてがっしりした胸にすっぽり収まっていた。

「えっ、あっ……」
「――危なかった」

 鼻先ゼロ距離で、塩見くんの香りがする。不意打ちだったのに、塩見くんの立ち姿はまったく軸がぶれなくて、『意外と力があるのね』と感じている自分がいた。

 胸板や腕の筋肉質な感触にドキドキしているのに、守られている安心感がある。