「し、塩見くん。連絡先の話なんだけど、断ったよ?」

 そう伝えると、塩見くんはぽかんと口を開けた。鳩が豆鉄砲くらったようなこの表情は、ちょっと貴重かも。

「え?」
「だから。その人に連絡先、教えてないってば」

 塩見くんの顔が、さっと赤くなったように見えた。

「あの、すみません。さっきの言葉は忘れてもらえませんか」

 横を向いて、腕で自分の顔を隠しているから、塩見くんの表情がわからない。

「え、なんで? ていうか、さっきのって、どれ?」
「……もう、いいです。ほら、グラスあいてますよ」

 顏を背けたまま、器用にシャンパンを注いでくれる。

「あ、ありがと」

 なんだか、うまくごまかされたような気がするけれど、これ以上突っ込むと私の心臓のほうがもたなそうだ。

 ぎこちない空気の中、お互いがクラッカーを食べるサクサクという音だけが響く。
 ドキドキしているせいか酔いが回ってきて、ふわふわした気持ちで塩見くんを見ていた。

 他愛無い褒め言葉がこんなにうれしく感じる、この感情はなんなのか。知りたいような、知るのが怖いような。