「で、そいつはどんなやつだったんですか」
「礼儀正しくて、それなりにイケメンではあったけど」
「へえ……。そうなんですか」

 塩見くんの妙に穏やかな口調と、目だけが笑っていない笑顔が怖い。

「ねえ、なんか怖いんだけど。まだ怒ってるの?」
「べつに、怒ってません」

 怒っていないなら、さっきからクラッカーにトッピングを盛り盛りにしているのはなんなのか。トマトバジルの上に、アボカドディップをソフトクリームのように重ねている。おいしそうではあるけれど、食べるときにこぼしそう。

「まあ僕は、先輩の仕事中のかっこいい姿も、普段のかわいい姿も知ってるからいいんですけどね。その人はまだどっちも、知らないでしょうから」

 ふたつめのクラッカーに、今度はかぼちゃサラダを盛りながら、塩見くんはすねたような口調でつぶやいた。

 二度目の『かわいい』に心臓は痛いくらい鼓動を打っているが、それよりも『その人はまだどっちも』という部分が気になった。もしかして塩見くんは、大事なことを誤解しているのでは?