「……塩見くん?」
「僕は今、怒ってます」

 いつも温厚な彼が、ストレートに怒りを口にしたことに驚いた。

「そ、それはわかるけど、なんで?」
「先輩がお酒を飲みながらおつまみを食べてる姿がかわいいのに。そいつら、なにもわかってないですね」
「え」

 不意打ちとしか言いようがない塩見くんのセリフに、ぼっと顔が熱くなる。

「お、怒ってくれて、あ、ありがとう……」

 なんだこれは。さっきまで落ち込んでいた気持ちがどっかに行ってしまった。男性陣に言われたショックなセリフよりも、塩見くんひとりの『かわいい』のほうがずっと強力で、私の気持ちを一気に塗り替えてしまった。

 さっきから心臓が跳ねまわっているし、しばらくは塩見くんの言葉が頭から消えそうにない。

「で、でも、いいこともあったのよ。ブーケはキャッチできたし」

 動揺しているのを悟られたくなくて、私はぺらぺらと結婚式のことを話す。気づいたら、高木さんに連絡先を聞かれたことまで話していた。

「……それって、ナンパですよね」
「あ、やっぱりそうなんだ」
「やっぱりって。その人最初から怪しかったじゃないですか。なんで先輩はそんなに警戒心がないんですか……」

 呆れたように、ため息をつかれた。

「そんなことを言われても……」

 モテ男の塩見くんならともかく、干物女の私に、男の下心を見分けるスキルがあるとお思いなのか。