「大したことじゃないのよ。ちょっと嫌なことがあったんだけど、子犬に噛まれたみたいなものだから」

 安心させようと思って軽い口調でそう説明したのだが、逆効果だったようだ。塩見くんは目を丸くしていた。

「噛まれるって……、大事じゃないですか!」
「間違えた。甘噛みよ、甘噛み! それに、例え話だから」
「それでもです。ちょっと嫌、レベルじゃなかったんでしょう?」

 塩見くんは静かな口調だったけれど、まっすぐな瞳はじっと私を見据えていて、ごまかしが通じないと悟った。私が塩見くんに隠し事ができないのは、運命と割り切るしかないのかも。

「……実はね」

 二次会での出来事をかいつまんで話す。自分のうっかりミスでお酒が弱いと思われたこと、そのあとお酒好きの女性はナシだと男性陣に言われたこと。
 ああ、思い出したらまた落ち込んできた。

「まあ、そんな感じのことがあったのよ。でもまあ、お酒の席でのことだし。居酒屋のときみたいに、名指しで否定されたわけでもないし」

 大したことない、と自分でも思いたくてそうフォローしたのに、塩見くんはむっつりと黙り込んでいる。