「いい話ね……」
「大学生になって、さあ就活するってなったときに、自分がどこの企業に入りたいか考えたんですよ。そのときに一番に頭に浮かんだのが、うちの会社でした。女性じゃないと採用は難しいのかなと思っていたのですが、研究職や営業職には男性も多いことを知って志望したんです」

 想像よりもドラマティックな志望動機を聞いて、私は塩見くんの新しい一面を見た気がした。

 家族を大事にする人なんだな、とか、意外と人情派なのかも、とか。お姉さんがいる男性って、女性に対して紳士的なイメージがあるけれど、彼が女性慣れしているのもそのせいかもしれない、とか。

「このクラッカーのカナッペも、コンシーラーのお礼に姉が作ってくれたものだったんです。最初はもっと、簡単なトッピングだったんですけど。そこからハマってよく作るようになって、トッピングのバリエーションも増えていって。今では塩見家の定番ですね」

 変わり冷奴のときもそうだけど、ひとつひとつの定番メニューの裏に、その家のドラマが隠されているものなんだな。それをおすそ分けしてもらっていると思うと、ほっこり心があたたかくなる。