「……頼りにしてたビタミン剤が、手に入らなくなっちゃって」

 ギリギリで嘘とは言えないようなごまかし方をすると、久保田ははりきった表情で「それならいいのがありますよ! 私が愛用しているサプリなんですけど……」とスマホ画面を見せてくれ、そのうえ、「今日は早く帰ったほうがいいですよ。これ買って帰って、土日はゆっくり休んでください」と優しい言葉までかけてくれた。

「いい後輩を持ったなあ……」

 結局、残った仕事は久保田に任せて退社することにした。
 日が伸びた初夏のオフィス街は、六時台でもまだ明るくて昼間のけだるさが残っている。

 どこか、別の店に入ってみようか。

 駅に向かいながらそんなことも考えてみたけれど、結局足を止めることなく電車に乗る。新しい店を開拓するだけのパワーが、今の私にはなかった。あれだけ豪快にぶん投げたというのに、あのおじさんたちに言われた言葉は投げ捨てられずに、胸の底に(おり)として残っているってことだ。鋼の仮面をつけていても、心まで鋼になったわけじゃないから。