お酒とおいしいおつまみ。お気に入りの店で飲む、気取らない時間。
 キラキラ女子の仮面を取って、きゅうくつなパンプスも脱いで、素の自分に戻れるこの時間があれば、なんだってがんばれると思っていた。今日、この日までは。


「ああ~、最悪……。もうあのお店行けない……」

 私はうつむきながら、街灯の光がぼんやり照らすアスファルトの道を、ふらつく足取りで歩いていた。
 本当だったら今ごろは、すっかりいい気分で酔っぱらって、大好きな〆の鯛茶漬けを食べているはずだったのに。

 金曜日のアフターファイブ。仕事人間だと思われている私でも、この日ばかりは仕事を急いで片付けて、だれよりも早く会社を出る。
 はやる心と、すっかりからっぽになったお腹で飛び込むのは、行きつけの居酒屋。女性ひとりでも入れるアットホームな雰囲気で、店主やスタッフもなごやかで、ここ二年くらい通っているお気に入りのお店だ。

 このお店のカウンターで、店主自慢のおいしいおつまみを肴にしながらお酒を飲むのが、私の一週間のビタミン剤なのだ。
 しかし今日は、いつもと様子が違っていた。