それから一週間ほど経ったときのこと。はるといつものように一緒に帰っていた。俺が渡したキーホルダーをつけている様子は
ない。俺ははるに「キーホルダーは?」と聞くとはるが「大事だからカバンの奥にしまってあるの」と言ってきた。キーホルダー
なんだからつけてくれよな、と思いカバンの奥を見てみるとキーホルダーが見つかった。俺があげた時よりも少しきれいになって
いるような気がしたので「あれ?はる、このキーホルダー」と言うとはるが笑いながら「せっかく亮介からもらったものだから
きれいにしたくって、家に帰ったら毎日磨いてるの」と言ってきた。俺は笑いながら「きれいにしたいんだったらカバンの奥に
しまっておかないほうがいいんじゃないの?」と言うと「それじゃあ学校に行ってる間愛しのキーホルダーに会えなくなっちゃう
じゃない」と言ってきた。なので俺は「お?キーホルダーに浮気か?」と言うとはるは笑いながら「そうかもね、ごめんね」と
言ってきた。そんな馬鹿話をしながらその日は終わった。そして翌日のこと。学校が終わってはると帰ろうとするとはるの顔面が
蒼白だ。俺は「どうしたの?」と聞くがはるは何も答えない。おかしいな、と思っているとはるが「亮介がくれたキーホルダーね」
と言ってきたので「キーホルダーがどうしたの?」と言うとはるが「昨日から見当たらなくて・・・。家の中も探し回ったけど
ないし、今日は学校の中もすっごく探したけど見つからなかったの」と言って泣き出してしまった。「あれ?でも昨日帰りに
俺が見せてもらった時にはあったよね?」と俺が言うとはるが「うん・・・。だからどこかに落としたとしてもその後のはず
なんだけど・・・亮介知らない?」と聞いてきた。俺は当然知るはずもないので「知らないよ。じゃあとりあえず昨日俺が
見せてもらったところまで行って、その後の道を探してみようか」と言った。はるは「うん、そうだね」と言ってきた。
あのキーホルダーは特別なものではないのでなくしてしまったと言われたらまぁそんなものかと思うレベルではあったが、
はるがすごく悲しんでいるのでデザインが良かったのかな、なんてぼんやりと思っていた。そして昨日俺がキーホルダーを見せて
もらった場所に着いた。そこから二人で下を見ながら歩くが見つかるわけもない。「見つからないね。まぁしょうがないじゃん、
また同じキャラクターのなんかを探してプレゼントするからさ」と俺が言うとはるは泣き出した。
あ、これがうれし泣きってやつか?と思っているとはるが「私だけだったんだね。もういい」と言って走っていなくなって
しまった。俺は全く理解ができなかった。私だけ?どういうことだ?俺があげたキーホルダーのデザインが可愛くて気に入ったとか
そういうことじゃないのか?しかも無くしたのははるなのになんで俺が怒られたみたいな空気になっているんだ?と思っていると
段々と腹が立ってきた。この件に関しては俺も意地になってしまいはるが謝ってくるまでは許さないぞ、という気持ちになった。
そこから数日の間、俺とはるは一緒に帰ることはなかった。いわゆる喧嘩の状態になったのだ。いくら仲の良いカップルでも
こういったすれ違いから別れって起こるのかもしれないななどとぼんやりと考えていた。はるのことを愛する気持ちに変わりは
ないが、こうしてずれた気持ちをお互いが抱え合って付き合っていくのも良くないことなのかもしれない。よし、今日ははると
改めて話をしよう。その上で決着がつかないようなら俺から別れを切り出そう、と思った。そして放課後になった。はるの教室へ
行こうと思い他の教室を抜けて歩いていると「先輩!」と声をかけられた。なんだ?と思い振り返るとそこにはバスケ部時代の
後輩の女の子の姿があった。部活を引退してからははる以外の後輩の女の子と話をする機会がなかったので珍しく思い
「どうしたの?」と聞いてみた。すると後輩は「最近、はるの元気がすごくないんですけど、何かありましたか?」と聞いてきた。
なので俺はことのあらましを話した。一通り話し終わった時点で後輩が「そんなことがあったんですね。で、先輩ははるに謝った
んですか?」と言われた。俺は「なんで俺が謝らなきゃいけないんだよ。あいつが勝手に無くして勝手に落ち込んでるんだぞ。
俺が謝ることなんて一つもないじゃん」と言った。するとその後輩は「先輩、今まではるに何かプレゼントってしたことありました
か?」と聞いてきたので「そんなにポンポンプレゼントを渡せるわけないじゃん。今回のキーホルダーが初めてだよ」と言うと
後輩は「失礼ですけど、先輩って不器用な性格だと思います。その不器用な先輩が、はるのために初めて用意したプレゼント
なんですよ?そこに意味があるってことになんで気づかないんですか?」と言ってきた。それを言われて俺は理解した。そうか、
デザインが気に入ったとかそういう話ではなく、俺からの初めてのプレゼントだから喜んでいたのか・・・。そんなことにすら
気づけなかった俺は馬鹿だ、しかもその上別れることまで考えていたなんて・・・「俺は馬鹿だ」と呟いて後輩に「教えてくれて
ありがとう。これからはるに謝りに行ってくる」と言って駆け出した。はるの教室に着いた。中を覗くとはるの姿があったので
近づいて「はる、ごめん。お前の気持ちに気づいてあげれなくて・・・。これ、お詫びのしるしなんだけど」と言って俺が普段から
使っているペンを渡そうとした。はるは「そういうのじゃないから」と言ってきたので「わかってる!このプレゼントにはなんの
意味もないし、はるがあのキーホルダーをどれだけ大事に思ってくれていたかも知ってる!けどこれからも俺ははるにたくさん
プレゼントをしていきたいから・・・受け取ったっていう実績だけでも作れないかな?」と言った。はるは少し笑って「もう。
そんなのなくてもこれからたくさんプレゼント頂戴よ?」と言ってきた。俺は泣きそうになりながら「はい。今は高校生だから
高いものを買ったりはできないけど、今後に期待しててください」と言った。はるは笑いながら「高くなくてもいいの。あ、でも
私を想う気持ちだけは忘れないでね」と言って抱き着いてきた。俺が「おいおい、学校の中だぞ。TPOをわきまえなさい」と言うと
「はーい、気を付けるよ、先輩」と言ってきた。先輩呼びもTPOか?なんて考えたが普段は亮介って呼ぶよな、と思い「まったく
もう。一緒に帰るぞ」と言って二人で帰った。そして家に帰って自分の洗濯物を部屋に持っていこうとしたときのこと。何かが
落ちたのでなんだ?と思い見てみるとそこにはキーホルダーがあった。どういうことだ?と思いはるにキーホルダーを見せて
もらった日のことを思い返してみると、俺ははるにキーホルダーを見せてもらった後自分のポケットにキーホルダーをしまって
いた。ワイシャツの胸ポケットに入っていたので今まで気づかず、洗濯にも耐えきったようだ。犯人は俺だったのか。これが
原因で別れ話なんて切り出していたら俺は自分で自分を追い込んだことになっているところだった。危ない危ない。