現在日時は三月六日、大学の合格発表の日だ。
俺が受験した大学へ、合否の結果発表を確認しにいくところだ。
周りは俺と同じような人たちばかりなのだろう、一人で来ているものもいれば、親と一緒にきているものもいる。
俺は一人で来ている。大学の合格発表に親を連れてくるなんてかっこ悪いと思ったからだ。
さて、大学に到着した。もうすでに合格発表がされているらしい。
落ちてしまったのか泣いている人、受かったのか大はしゃぎをしている人などそれぞれである。
さて、掲示板の前に到着した。
ここで、今回の自分の状況について一度整理しておこうと思う。
まず、大学だが俺が受験した大学はこの関東大学だけだ。
普通といってはおかしいが、いくつか大学を受験しないのか?と思う人もいると思う。
しかし、俺はこの関東大学にいる教授が行っている講義に興味があるため、この大学を選んだのだ。
正直言って、他の大学であれば行く必要はないと思っている
そして受験した時の手ごたえについてだが、正直自信はある。
自己採点の結果、7割以上は取れていると思えたのだ。7割取れていればそうそう落ちることはないだろう。
というわけでいざ、掲示板の前へ。俺の受験番号である71番の数字を探す。まぁあるだろうが。
ずっと見ていくと60番台が乗っている。そろそろだな、と思い目を滑らせていく。
68、70、73・・・おや?見逃してしまったか?改めて確認をしてみる。
しかし、俺の番号は存在しない。念のため他のところも確認してみるがやっぱり存在しない。
俺が落ちた?7割以上取れていると思ったのに?他の人たちの成績がそんなに良かったのか?
そう考えていると、大学の職員らしき人がメガホンを持って何かを案内している。
「えー、今年はですね、問題用紙に名前を書いていない人がたくさんおりました。その方は申し訳ありませんが不合格とさせていただいております。」
名前の書き忘れ?まさかそんな・・・。と思いながらよくよく思い返してみると、確かに名前を書いた記憶がない。
だが名前を書くことなどいちいち覚えているはずがないのだからそれくらい当たり前だろうとも思う。
とはいえ俺は落ちた・・・そして名前未記入者が多いというアナウンスまである・・・。そんなばかなと思っていると、
また新たに大学職員が紙をもってやってきた。
その紙が掲示板に張り出される。どうやら今回の受験結果の平均点などをまとめているもののようだ。
普通ならばそんなことをしないだろうが、名前未記入者が多かったので点数を公開したのだろう。
そこを見ると、合格ラインは64点と書いてあった。64点が合格ラインならば、俺は受かっているはず・・・。
なのに番号がない。つまり俺は名前を書き忘れたのだろう。
そんなことで落ちるなど・・・。落ち込みながらも大学を去る。
来年は名前をきちんと書こう。そう思いながらもやはり気分は落ち込む。
親になんて説明すればいいのだろうか。自己採点結果では受かった、などと吹聴してしまっている。
そんなことを考えながら歩いていると、近くに一つの公園があった。
気分を晴らすために少し公園にでも寄っていくか、と思い公園の中へと入る。
すると、近くのベンチに座っているおじさんがいた。
俺もベンチに腰掛けてみる。するとそのおじさんが声をかけてきた。
「受験生の方ですかな?」
俺は少し驚きながらも返事をする。
「はい、そうです。」
おじさんがこちらをじっと見た後、また口を開く。
「見たところによると・・・結果はよろしくなかったようですな。この度は残念でしたね。」
そんなに落ち込んでいるように見えたか?と思いながらも、俺も口を開く。
「ええ、まぁ。自分では受かっていると思ったんですけどね。どうやら名前を書いていなかったようで・・・。」
と話していると自分の目から冷たい何かがあふれてきた。涙である。
落ちたことによるショックは。人に話すことで自分の心に刺さってきたのだろう。
涙をぬぐいっていると、またおじさんが口を開く。
「それは残念でしたね。まぁ大学受験は人生に一度きりではありませんから、来年また頑張ってください。
ちなみになぜ大学へ行こうと思ったのですか?」
このおじさんは初対面なのに色んなことを聞いてくるな、と思いながらも傷心の俺は話しを続ける。
「大学で学びたいことがあったのです。芥川龍之介についてなんですが・・・。」
するとおじさんが
「ほう。となるとあの大学ですから・・・北村教授から教えてもらおうと思ったんですね?」
と言ってきた。
なんだこのおじさんは、やけに大学のことに詳しいなと思いながらも「ええ、そうです」と答えた。
するとおじさんは、「たけし・・・あ、いや君がわかるように言うと北村教授とは古い知り合いでね」と言った。
これには俺も驚いた。大学受験の帰りにたまたま寄った公園で、俺が学びたいと思っていた教授の知り合いに会うとは・・・。
俺が驚いているとそのおじさんが続ける。
「北村教授であれば芥川について詳しく教えてくれるでしょう。ぜひ来年は頑張ってください。
くれぐれも、名前の書き忘れはしないようにね。」
きっと北村教授と俺には何か縁があるに違いない。そしてこのおじさんはその縁を結んでくれる人なのだ。
そんなことを考えていると笑みがあふれてきた。大学に今年受からなかったことは確かにショックだが、
こうして北村教授と縁のあるおじさんと知り合うことができた。それだけでも今日来た意味があったのではないか。
しかし、今日は平日。普通の人ならば働いている時間である。そんな時に公園におじさんが一人座っている・・・。
ふと気になり、おじさんに尋ねてみた。
「おじさんは、ここで何をしていたんですか?」
するとおじさんが話し出した。
「私も関東大学で教授をしていてね。私の専門は夏目漱石なんだが・・・。」
驚いた。この人も教授だったのか。しかも関東大学の。確かに教授ならばこの時間に外をふらついたとしてもおかしくはないかもしれない。
おじさんが続ける。
「私も北村教授もお互いに個人で勉強を続けていたんだけどね、たまたま同じ大学から声がかかってね。
私も大学で北村教授を見た時は驚いたよ。なぜお前がここにいるんだってね。」
なんということだろう、このおじさんは北村教授の知り合いというだけでなく、俺が行きたい大学の教授だったとは・・・。
こんな偶然があるかと思いながら、俺は少し図々しいお願いをしてみることにした。
「そうなんですね、びっくりしました。一つお願いがあるのですが・・・。来年必ず関東大学に受かりたいので、
少し俺の勉強を見てもらえませんか?」
普通の人ならこんなお願いはしないだろう。ただ俺は受験生であり、しかも失敗した身なのだ。
それにもしここで断られたとしてもこのおじさんに会うのは早くても来年のことになるだろうからという思いも俺の気持ちを
強くした。するとおじさんが口を開いた。
「成程・・・。ここで北村教授から勉強したいと思う君に出会ったのも何かの縁だ。私としても
君には是非とも来年関東大学に来てもらいたいから勉強を見てあげたいとは思う。ただね、私はこれでも教授なんだ。
人に勉強を教えることでお金をもらっている身なので、ただでというわけにはいかないな。」
当然といえば当然である。大学教授ともあろう人に勉強を教えてもらうことなど簡単なことではない。
普通に予備校などに通えばそれなりにお金はかかるのである。そう考えているとおじさんが続けて話し出した。
「条件は二つある。一つは芥川だけでなく、夏目漱石についても勉強をすること。
私としても夏目漱石のことに詳しい若者が増えるのは嬉しいからね。」
それなら、と思い俺が承諾しようとしたが、もう一つの条件を聞いていない。
きっと高額を言われるのだろうと思いおそるおそる聞いてみた。
「わかりました。それでもう一つの条件とは?」
するとおじさんがにっこりと笑いながらこう言った。
「来年、君が合格した時の喜びの顔を私に見せることだ」
俺が受験した大学へ、合否の結果発表を確認しにいくところだ。
周りは俺と同じような人たちばかりなのだろう、一人で来ているものもいれば、親と一緒にきているものもいる。
俺は一人で来ている。大学の合格発表に親を連れてくるなんてかっこ悪いと思ったからだ。
さて、大学に到着した。もうすでに合格発表がされているらしい。
落ちてしまったのか泣いている人、受かったのか大はしゃぎをしている人などそれぞれである。
さて、掲示板の前に到着した。
ここで、今回の自分の状況について一度整理しておこうと思う。
まず、大学だが俺が受験した大学はこの関東大学だけだ。
普通といってはおかしいが、いくつか大学を受験しないのか?と思う人もいると思う。
しかし、俺はこの関東大学にいる教授が行っている講義に興味があるため、この大学を選んだのだ。
正直言って、他の大学であれば行く必要はないと思っている
そして受験した時の手ごたえについてだが、正直自信はある。
自己採点の結果、7割以上は取れていると思えたのだ。7割取れていればそうそう落ちることはないだろう。
というわけでいざ、掲示板の前へ。俺の受験番号である71番の数字を探す。まぁあるだろうが。
ずっと見ていくと60番台が乗っている。そろそろだな、と思い目を滑らせていく。
68、70、73・・・おや?見逃してしまったか?改めて確認をしてみる。
しかし、俺の番号は存在しない。念のため他のところも確認してみるがやっぱり存在しない。
俺が落ちた?7割以上取れていると思ったのに?他の人たちの成績がそんなに良かったのか?
そう考えていると、大学の職員らしき人がメガホンを持って何かを案内している。
「えー、今年はですね、問題用紙に名前を書いていない人がたくさんおりました。その方は申し訳ありませんが不合格とさせていただいております。」
名前の書き忘れ?まさかそんな・・・。と思いながらよくよく思い返してみると、確かに名前を書いた記憶がない。
だが名前を書くことなどいちいち覚えているはずがないのだからそれくらい当たり前だろうとも思う。
とはいえ俺は落ちた・・・そして名前未記入者が多いというアナウンスまである・・・。そんなばかなと思っていると、
また新たに大学職員が紙をもってやってきた。
その紙が掲示板に張り出される。どうやら今回の受験結果の平均点などをまとめているもののようだ。
普通ならばそんなことをしないだろうが、名前未記入者が多かったので点数を公開したのだろう。
そこを見ると、合格ラインは64点と書いてあった。64点が合格ラインならば、俺は受かっているはず・・・。
なのに番号がない。つまり俺は名前を書き忘れたのだろう。
そんなことで落ちるなど・・・。落ち込みながらも大学を去る。
来年は名前をきちんと書こう。そう思いながらもやはり気分は落ち込む。
親になんて説明すればいいのだろうか。自己採点結果では受かった、などと吹聴してしまっている。
そんなことを考えながら歩いていると、近くに一つの公園があった。
気分を晴らすために少し公園にでも寄っていくか、と思い公園の中へと入る。
すると、近くのベンチに座っているおじさんがいた。
俺もベンチに腰掛けてみる。するとそのおじさんが声をかけてきた。
「受験生の方ですかな?」
俺は少し驚きながらも返事をする。
「はい、そうです。」
おじさんがこちらをじっと見た後、また口を開く。
「見たところによると・・・結果はよろしくなかったようですな。この度は残念でしたね。」
そんなに落ち込んでいるように見えたか?と思いながらも、俺も口を開く。
「ええ、まぁ。自分では受かっていると思ったんですけどね。どうやら名前を書いていなかったようで・・・。」
と話していると自分の目から冷たい何かがあふれてきた。涙である。
落ちたことによるショックは。人に話すことで自分の心に刺さってきたのだろう。
涙をぬぐいっていると、またおじさんが口を開く。
「それは残念でしたね。まぁ大学受験は人生に一度きりではありませんから、来年また頑張ってください。
ちなみになぜ大学へ行こうと思ったのですか?」
このおじさんは初対面なのに色んなことを聞いてくるな、と思いながらも傷心の俺は話しを続ける。
「大学で学びたいことがあったのです。芥川龍之介についてなんですが・・・。」
するとおじさんが
「ほう。となるとあの大学ですから・・・北村教授から教えてもらおうと思ったんですね?」
と言ってきた。
なんだこのおじさんは、やけに大学のことに詳しいなと思いながらも「ええ、そうです」と答えた。
するとおじさんは、「たけし・・・あ、いや君がわかるように言うと北村教授とは古い知り合いでね」と言った。
これには俺も驚いた。大学受験の帰りにたまたま寄った公園で、俺が学びたいと思っていた教授の知り合いに会うとは・・・。
俺が驚いているとそのおじさんが続ける。
「北村教授であれば芥川について詳しく教えてくれるでしょう。ぜひ来年は頑張ってください。
くれぐれも、名前の書き忘れはしないようにね。」
きっと北村教授と俺には何か縁があるに違いない。そしてこのおじさんはその縁を結んでくれる人なのだ。
そんなことを考えていると笑みがあふれてきた。大学に今年受からなかったことは確かにショックだが、
こうして北村教授と縁のあるおじさんと知り合うことができた。それだけでも今日来た意味があったのではないか。
しかし、今日は平日。普通の人ならば働いている時間である。そんな時に公園におじさんが一人座っている・・・。
ふと気になり、おじさんに尋ねてみた。
「おじさんは、ここで何をしていたんですか?」
するとおじさんが話し出した。
「私も関東大学で教授をしていてね。私の専門は夏目漱石なんだが・・・。」
驚いた。この人も教授だったのか。しかも関東大学の。確かに教授ならばこの時間に外をふらついたとしてもおかしくはないかもしれない。
おじさんが続ける。
「私も北村教授もお互いに個人で勉強を続けていたんだけどね、たまたま同じ大学から声がかかってね。
私も大学で北村教授を見た時は驚いたよ。なぜお前がここにいるんだってね。」
なんということだろう、このおじさんは北村教授の知り合いというだけでなく、俺が行きたい大学の教授だったとは・・・。
こんな偶然があるかと思いながら、俺は少し図々しいお願いをしてみることにした。
「そうなんですね、びっくりしました。一つお願いがあるのですが・・・。来年必ず関東大学に受かりたいので、
少し俺の勉強を見てもらえませんか?」
普通の人ならこんなお願いはしないだろう。ただ俺は受験生であり、しかも失敗した身なのだ。
それにもしここで断られたとしてもこのおじさんに会うのは早くても来年のことになるだろうからという思いも俺の気持ちを
強くした。するとおじさんが口を開いた。
「成程・・・。ここで北村教授から勉強したいと思う君に出会ったのも何かの縁だ。私としても
君には是非とも来年関東大学に来てもらいたいから勉強を見てあげたいとは思う。ただね、私はこれでも教授なんだ。
人に勉強を教えることでお金をもらっている身なので、ただでというわけにはいかないな。」
当然といえば当然である。大学教授ともあろう人に勉強を教えてもらうことなど簡単なことではない。
普通に予備校などに通えばそれなりにお金はかかるのである。そう考えているとおじさんが続けて話し出した。
「条件は二つある。一つは芥川だけでなく、夏目漱石についても勉強をすること。
私としても夏目漱石のことに詳しい若者が増えるのは嬉しいからね。」
それなら、と思い俺が承諾しようとしたが、もう一つの条件を聞いていない。
きっと高額を言われるのだろうと思いおそるおそる聞いてみた。
「わかりました。それでもう一つの条件とは?」
するとおじさんがにっこりと笑いながらこう言った。
「来年、君が合格した時の喜びの顔を私に見せることだ」