「亮介、はるちゃんとカップルでのイベントってやった?誕生日とか」と雅之に突然聞かれた。誕生日か、一年に一度やってくる
大事なイベントなのでそれは盛大に祝ってあげたいな、と思った。だが、俺ははるの誕生日を知らなかった。ただの部活の後輩
であったはるの誕生日を知る機会などなかったからだ。なので俺は「今まで考えたことなかったな。そもそも俺、はるの誕生日
知らないしな」と言った。すると雅之は「彼女の誕生日くらいちゃんと知っておけよな。それに誕生日じゃなくてもこれから
クリスマスや年越しもあるんだから少し考えておけよ。まあいいや、はるちゃんの誕生日は俺がみくに聞いておいてやるよ」と
言ってきた。いくらなんでも誕生日くらい自分で聞けるよ、と思い俺は「いやいや、みくちゃんに聞かなくてもそれくらいは」と
言うと雅之は「はるちゃんと直接誕生日の話をしたことないんだろ?だったらお前が誕生日を知ってるってことをはるちゃんも
把握してないわけじゃん。ま、ちょっとしたサプライズってやつだな」と言ってきた。確かにいくら付き合ったとはいえはると直接
誕生日について話をしたことはない。付き合う前だって部活の先輩後輩の関係なのだから誕生日トークになることもなかった。
俺は「なんかお前の言う通りになるのも癪だけどいい案かもしれないから乗っとくわ。みくちゃんにはるの誕生日聞いといて
くれるかな」と頼むと雅之は「任せとけよ。明日になったら教えるよ」と言った。そしてその日は終わった。翌日、学校へ行くと
雅之が「おい、はるちゃんの誕生日なんだけどさ」と言ってきた。お、わかったのか?と思っていると「11月25日だってよ」と
言ってきた。今日の日付は・・・と思い確認すると11月18日だ。おいおい、あと一週間しかないじゃないかと思っていると雅之が
「まさかこんなに早いと思わなかったよ。あと一週間しかないけどできるだけ準備してあげてな」と言ってきた。そこから俺の
はるへのサプライズ計画が始まった。まず、誕生日なのだからプレゼントをあげなければならないだろう。とはいえ高校生の身分で
そんなに良いものは買えない。だからといって変なものをあげるわけにはいかないしな、と考えながらネットで調べてみることに
した。女子高生への誕生日の定番と言えば、と調べてみるとペンなどを上げるのがいいらしい。でもペンとなるとインクが
なくなったら使われなくなってしまう。はるはそれでも大事にしてくれるだろう。場合によってはインクを変えて使ってくれる
かもしれない。だがその「変えて使う」と言うのが彼氏が渡すものとしてはいまいちだよな、と思った。他にも調べてみると色々と
出てきた。そして目に止まったのがハンカチだった。ハンカチなら普段使いするものだし、ダメになるとしても数年後のこと
だろう。これはいいかもしれないな、と思い近くのデパートにハンカチを見に行くことにした。ハンカチはたくさん売っているが
どんなものがいいかを選ぶのは俺のセンスだよな、と思った。色や形についてははるっぽいものを俺が選べばいいだろう。そして
いいハンカチがあったのでそれを買った。当然誕生日用にラッピングをしてもらった。これでプレゼントの準備はできた。あとは
誕生日と言えばケーキだよな、とぼんやりと思った。だがあまり大きなケーキを買うと食べきれないかもしれない。小さなケーキを
買えばいいな、と思った。とはいえケーキは長く持つものではないので買うとしたら誕生日当日だよな、なんて思った。他に何か
ないかと考えたが思いつかない。歌でも歌うか?と思ったが誕生日の歌ぐらいはいいだろうが他に何を歌うんだよ、と自分で自分に
ツッコミを入れた。手紙でも書こうかと思ったがこの間手紙は渡したしな・・・なんて思って悩んでしまった。とはいえこれだけ
準備すれば問題ないだろうと思った。そして準備をしているうちにあっという間に期間は過ぎてはるの誕生日当日になった。
はるの誕生日だからと言って部活が休みになるわけはない。普通に部活はあるのだが放課後になると俺ははるの教室へと向かった。
いつもなら直接体育館に向かうのに、だ。はるは「あれ?亮介、どうしたの?今日は部活休みじゃないよ?」と言ってきたので
「ごめん。今日はちょっと用事があって部活に行くの遅れるんだ。俺が間に合わなかったら先に帰っていいからね」と告げた。
はるは「うん、わかった。亮介が用事なんて珍しいね」と言ってきたので「どうしても外せなくてね。ごめんね、間に合うように
行くから」と言ってはるの教室を出た。そして俺は近くのケーキ屋さんへ向かった。ケーキ屋さんで「予約をしていた中井です」と
伝えると小さなケーキが用意されていた。ワンカットのケーキのために予約をするなんて、と思うかもしれないがもしもなかったら
困るから仕方がないのだ。俺はケーキを買って、その足で学校の体育館へと向かった。当然だが部活はまだまだやっていた。なぜ
はるに向かって間に合わなかったら・・・と言ったかと言うとバレないようにするためだ。そして体育館の脇に座って、部活が
終わるのを待った。部活終了後、はるが「亮介、用事は全然早かったんだね」と言ってきた。なので俺は「うん、結構トントン拍子
で進んでね」と言った。そしてはるが「まぁ亮介がいてくれた方がいいや、一緒に帰ろ」と言ってきたので一緒に帰ることに
なった。そして帰り道ではるに「今日ってなんか特別な日じゃなかったっけ?」と聞いてみた。するとはるは「え?別になんにも
ないよ?部活もいつも通りだったし」と言ってきた。なので俺はあくまで自分では言わない気なんだな、と思いはるに
「そういえばさ、俺らって付き合いはしたけどお互いのことあんまり知らないよな」と言った。はるは「そうかな。でも亮介の
良いところはわかってるつもりだよ?」と言ってきたので俺が「例えばだけど誕生日とかね。はる、俺の誕生日って知ってる?」と
言うと「5月16日でしょ?知ってるよ」と言ってきた。俺が「良く知ってるね。なんで?」と聞くと「亮介と付き合う前に他の先輩
から聞いたの。好きな人のことなんだから知りたくなるのは当たり前でしょ」と言ってきた。なるほどなぁと思いはるに「まぁ
そうだね。じゃあちなみになんだけどはるの誕生日は?」と聞いた。するとはるは「私の誕生日も知らないの?私は・・・」と
言って黙り込んでしまった。なので俺は「ん?教えてよ」と言うとはるは「また今度ね。今日はもう帰ろ?」と言ってきた。
絶対今日教えるつもりはないんだな、と思い強硬策に出た。「はる、渡したいものがあるんだけど」と言うとはるが「え?なに?」
と不思議そうな顔をしてきた。「はい。誕生日おめでとう。誕生日のケーキだよ」と言ってはるに渡した。はるは「え?え?」と
言ってすごく混乱していた。そして「なんで今日だって知ってるの?私、亮介に言ったことないよ?」と言ってきたので「好きな
人のことなんだから知りたくなるのは当たり前でしょ、だっけ?」と言った。はるは大きな涙を流した。そして「私、自分から
誕生日なんだって言い出せなくて・・・。どうしようかなって思ってたの。でも亮介とは来年も一緒にいられるからその時で
いいかな、なんて思ってたのにこうやって亮介から祝ってもらえて・・・すっごく嬉しい。ありがとう」と言った。なので俺は
このタイミングだと思い「はる、泣かないで」と言った。はるは「無理だよ。嬉しすぎるんだもん」と言ってきた。俺は「泣いてる
ところは見たくないな。このハンカチで拭いて?」と言ってラッピングされたハンカチを渡した。はるは受け取ると「え?これは
なに?」と言ってきた。「俺からの誕生日プレゼントだよ。こんなものしか渡せなくてごめんね」と言った。はるはさらに泣いた。