「お前の彼女とも話してみたいな」。ある時友人からこう声をかけられた。友人の名前は小野雅之。高一から同じクラスで
今のクラスも同じだった。部活のない日はよく遊んだ。雅之の親の顔まで知っているくらいだ。そこそこ長い付き合いとなると
いわゆる「親友」というやつなのかもしれないがお互いに言い合ったことはない。単純に照れ臭いのだ。それに友達付き合いの中で
「俺たちって親友だよな!」なんていう機会はないしね。俺は「じゃあ今日の放課後彼女のクラスまで行こうぜ、そこで少し話せば
いいじゃん」と言った。雅之は「マジで?いいの?お前のこと色々聞いちゃおっと」と言ってきた。やめてくれよと思いながらも
親友と呼べるほどの付き合いなのだから会わせておいてもいいよな、と思い放課後雅之とともにはるの教室へ向かった。教室に
着くとはるがいたので「おーい、はる」と呼びかけるとその友達らしき人と一緒にこちらへ来た。「亮介、帰ろうか・・・
あれ?そちらは?」と雅之に気づいたようだ。「あ、どうも。俺、亮介の友達で小野雅之って言います!はるちゃんと話して
みたいって言ったら亮介がはるちゃんの教室に一緒に行こうぜって言うからついてきちゃいました!」と雅之が言った。
これを聞いてはるはにっこりと笑い「そうなんですね。私は高村はるって言います。中井亮介の彼女をやらせてもらっています。
小野さんは亮介の親友なんですか?」と聞いた。雅之が「親友とかって照れるじゃないっすか。まぁでも結構よく遊んでたんで
親友と言えるかもしれないっすね。あ、俺には敬語いらないっすよ」と言ったので「うん、わかった。じゃあよろしくね、
小野さん。あ、そっちも敬語はいらないからね」とはるが言うと「オッケー!じゃあ最近の亮介のこと聞かせてよ。こいつって
女と付き合うとどんな風になっちゃうのかな」と言って俺の話が始まった。恥ずかしいがまぁ仕方ないなと思い過ごしていると
遠くの方からこちらへ近づいてくる一人の女性がいた。そして俺たちの前に立ち雅之に向かって「あの、はるの彼氏の亮介さん
ですか?私、高村はるの親友の遠藤みくって言います」と言った。雅之は「え?あー、いや、亮介はそっちね。俺は亮介の友達の
小野雅之って言います」。それを聞くとみくさんは雅之にすみませんと一礼しこちらを向いて「改めまして、高村はるの親友の
遠藤みくです。はるが男の人に囲まれて話してるなんて珍しかったのでつい声をかけちゃいました。私は隣のクラスなんですが
はるとは高一の時に同じ委員会で知り合ってからの付き合いで・・・」と言ってきたので俺は「みくちゃんね、中井亮介です。
はるの彼氏やってます。って俺らも敬語はやめようか、ね、みくさん」と言うとみくさんは「良いんですか?先輩なのに」と
言ってきたので「先輩だけどその前に親友の彼氏でしょ?ちょっと敬語は悲しいかな、なんてね」と俺が返すと「すみません。
そこまで頭が回らなくて・・・じゃあ改めてよろしくお願いしま、いえ、よろしくね、亮介くん」と言ってきた。ここから4人での
会話が始まった。小一時間ほど話したところで雅之が「あ、あんまり話しすぎると帰りが遅くなっちゃうよね。ごめんね、そろそろ
帰ろうか」と言ってきた。部活の時はもっと遅いからそこまで気にしなくていいんだけどな、と思いながらも学校なのでずっと
い続けては学校側に迷惑がかかるかもしれないな、と思い帰ることにした。俺とはるは同じ駅に向かうが雅之とみくちゃんは
バスで通学している。なので校門前で二人に別れを告げて俺とはるで帰ることになった。今日は楽しかったね、なんて話を
していると「亮介さ、みくのことどう思った?」と聞いてきたので俺は「いい子だと思ったよ?あ、浮気してやろうとかそんな
思いはないからね?」と言った。はるは笑って「みくと浮気されたら私はもう誰も信じれなくなるかもね。そうじゃなくてさ、
みくって雅之君に気がありそうな雰囲気だったんだけど感じなかった?」と言ってきた。確かにみくちゃんはたまにぼーっと
雅之のことを見ているタイミングがあった。だが好きかどうかと言われるとよくわからなかった。なので「その辺は明日にでも
みくちゃんに聞いてみたら?」と言った。はるは「そうだね。もしこれで気があるようなら私たちが恋のキューピッドになれるかも
しれないもんね」と言ってきた。恋のキューピッドも悪くはないな、なんて思いながらその日は帰った。そして翌日、雅之が
「昨日はありがとな」と言ってきた。なので俺は「はるも楽しかったって言ってたよ。ちなみにあの後みくちゃんと二人で
帰ったの?」と聞いてみた。雅之は「うん。みくちゃんと俺は同じバンドが好きだったから結構盛り上がっちゃったよ。あ、それで
少しだけ話があるんだけどさ」と言ってきた。俺が「ん?なに?」と言うと「俺さ、みくちゃんのこと・・・気になってるかも」と
言ってきた。なので俺は「それはそれは・・・。いいことなんじゃないかな」と言った。雅之が「またあんな風にみくちゃんと
話す機会作れないかな?」と言ってきたので「はるを介してならいけるんじゃない?あっちは親友同士らしいし俺らも・・・まぁ
親友なわけだからな」と返した。雅之はよっしゃ!とガッツポーズをしていた。昨日の話だとみくちゃんもお前のこと好きかもって
はると話してたんだけどな、と頭をよぎったがそれは黙っておくことにした。変に期待させちゃ悪いしね。雅之が「じゃあさ、
はるちゃんにお願いしたいからまた放課後ああやってはるちゃんに会いに行っていいかな?」と聞いてきたので「いいよ。あ、でも
今日は部活だから次の部活が休みの日、明後日まで待機な」と言った。雅之は「よろしくな!」と言って自席へ戻っていった。
そしてその日の帰り、はるに話をしてみた。「あのな、雅之がみくちゃんのこと少し気に入ったみたいなんだよね」。するとはるが
「あ、そうなの?私も今日みくに聞いたけどみくもちょっと気になったって言ってたよ。これってつまり」と言ってきたので
「両想いってやつか?まだ決めつけるのは早いけどな」と返した。そして「明後日部活休みじゃん?雅之がお前と話したいって
言ってたよ」と言うとはるは「わかった。多分みくのことを聞き出そうとしてるのかな?」と言ってきたので俺は「多分ね。
あいつは結構真面目なところあるからな」と言ってお互い笑い合った。そして二日後。放課後になると雅之が近づいてきて
「おい、早くはるちゃんのところ行こうぜ」と言ってきた。俺は「言われなくても行くっての。お前も行くんだろ」と言って
雅之とともにはるの教室へと向かった。教室へ着くとはるが女の子とと一緒にいた。友達か?と思っているとその子はみくちゃん
だった。俺はそれに気づいて雅之に「あれ?みくちゃんいるじゃん」と言った。すると雅之は驚いたようで「あ、ああ。そうだな」
と言っていた。気になっている子に会えた喜びとその子のことを相談しようと思っていたという思いで混乱していたのだろう。
気にせずはるの元へ向かい俺は「はる、帰るぞ。あ、みくちゃんこんにちは」と言った。みくちゃんは「あ、こんにちは。
すみません、少しはると話がしたくて」と言ってきたので「気にしなくていいよ。友達が友達と話すのに許可がいるなら俺もこいつ
と話すのに許可が必要になっちゃうからね」と雅之の肩を押した。雅之は「あ、こんにちは」と小さな声で言った。みくちゃんは
少し驚いた顔をして「あ、雅之さん。今日も一緒だったんですね、こんにちは」と言った。ここで俺は少しだけ融通を利かせた。
みくちゃんはそこそこの気遣いやさんなのでもしも俺が「雅之がはると話したいって言ってた」と言ったら場合によっては帰って
しまうかもしれない。と言ってこの間のように話すよりは少し雅之にチャンスをあげようと思った。俺は「ちょうどよかった。
みくちゃんさ、なんか雅之が話したいことがあるらしくてさ。女性の気持ちについて知りたいらしいんだけど良かったら聞いて
あげてくれないかな?」と言った。雅之は焦って「おい、何を言って・・・」と言ってきたが俺は無視をして「少しだけ時間
あるかな?」と言った。みくちゃんは「はい、私で良ければ大丈夫ですけど・・・女性の気持ちを知りたいということであれば
私の友達も呼びましょうか?」と言ってきた。ここで友達を呼ばれてしまうと折角の俺の計画が無駄になってしまう、と思い
「あー。ありがたいけどさ、雅之って実は初対面の女の人と話すの苦手なんだよね。だからみくちゃんだけでも聞いてくれない
かな?」と言った。みくちゃんは不思議そうな顔をして「そうなんですか?この間私と話した時は全然平気でしたけど」と言って
きた。雅之は別に初対面の女性と話すのが苦手なわけはない。だが別にこのくらいのことは後でいくらでも訂正できるしすごく
悪影響を及ぼすことはないだろうと考え「みくちゃんは話しやすかったんじゃないかな。とりあえず頼むよ」と言った。
みくちゃんは「はい、わかりました。力になれるかな」と言った。これを聞いて俺は「じゃあ悪いけどよろしくね。はる、帰るぞ」
とはるに言った。みくちゃんは「え?はるは一緒に聞くんじゃないんですか?」と言ってきた。俺は「ごめんね。今日、俺とはるは
デートに行こうって約束してたんだ。だから帰らせてもらっていいかな?」と言った。みくちゃんはまた不思議そうな顔をして
「そういうことならいいですけど・・・」と言ってきた。なんで不思議そうな顔をしているか俺にはよくわからなかったが自分の
中では完璧にうまくいったと思いはるを連れて教室を出た。そして帰り道で「雅之とみくちゃん、うまくいくかな」とはるに聞くと
「そこは二人の問題だからあまり口出しはできないけど・・・さっきのは結構ぐだぐだだったね」とはるが笑いながら言ってきた。
俺は「え?ぐだぐだだった?個人的には完璧だったと思ったんだけど」と言うとはるが「なんで彼女とデートする予定の男が友達と
一緒に教室に来るのよ。しかもその友達は悩みを抱えてるって?だからみくは不思議そうな顔をしてたんだよ」と言ってきた。
「それに、みくちゃんは話しやすかったんはないか、とか言ってたじゃない。雅之君が意識してるって思わせるのは雅之君の仕事
なんじゃないの?」と続けてきた。色々と突っ込まれて「そうだね。でも焦って考えた案なんだからその辺は許してよ」と言うと
「別に怒ってはないけどね。あ、ちなみにこれからどこに連れてってくれるの?」と言ってきた。今日は別にどこにも行く予定は
なかったので俺が「え?どこにって、帰るんじゃないの?」と聞くとはるは笑って「だって今日はデートの日なんでしょ?」と
言ってきた。こういうところがうまいよな、と思い「じゃあ、カラオケでも行こうか」と言って学校から歩いて行けるところにある
カラオケ屋に行った。そこからは普通にデートをした。あっという間に時間は来てしまった。とはいえ帰るにはまだ少し時間が
早かったので「どこかでご飯でも食べてく?」と言うと「いいね、じゃあとりあえず駅まで行こうか」とはるが言ったので
一緒にカラオケ屋を出ようとするとそこには雅之の姿があった。あれ?雅之?お前ヒトカラするほどカラオケ好きだったっけ?
なんて思いながら声をかけようとするとトイレからみくちゃんが出てきた。俺とはるは驚いて「あれ?雅之、お前」と言うと雅之が
驚いた顔をして「え?亮介、なんでお前ここにいるんだよ」と言ってきた。なので俺は「いや、そりゃ学校の近くのカラオケ屋
なんだからカップルが来るのは当たり前だろ。むしろお前とみくちゃんこそなんでここに?」と聞いた。すると雅之は少し得意げに
「今、お前が言ったじゃん」と言ってきた。意味がよくわからなくて「え?どういうこと?」と俺が聞くと雅之は「だからな。
学校の近くのカラオケ屋にカップルが来るのは当たり前だろ?」と言ってきた。