ある日の帰り道。「亮介って手紙書いたことある?」。はるに突然聞かれた。手紙を書いたことはなかった。小さい頃に親に向けて
手紙を書くようなことはあったかもしれないが記憶には残っていない。なので俺は「ないと思うけど、どうして?」と聞いた。
はるは「思うって何よ。あ、もしかして歴代の彼女たちには手紙を送ってた、とかそんな感じ?」と言ってきた。なので俺は
「いやいや、そんなことしてきてないし。大体彼女と話してる時に過去の女性の話をするとか失礼すぎるだろ」と言った。
すると「だからこそ思うって言って少しぼやかしたんじゃないの?」と聞いてきたので「記憶にはないけど子どものころに
親に手紙を書いたことはあるかもしれないけど・・・ってお前、わかってて聞いてるな?」と言うとはるはクスクス笑って
「あ、ばれた?亮介も段々私って人のことがわかってきたみたいだね」と言ってきた。まったくこいつは・・・と思いながら
「でもなんで急に手紙の話なんてしてきたの?」と聞いてみた。はるは「別にいいでしょ。あ、ちなみに誰かから手紙をもらった
ことはある?」と聞いてきた。手紙をもらったことか・・・。ラブレターなんて無縁の生き方だったしなぁと思い「いや、
もらったことはないよ」と言った。それを聞くとはるは「そっか、わかった」とだけ言って普通に歩きだした。なんだ?と
思いながらもその日はそのまま帰った。そして数日後のことである。今日ははるの部活が休みなので早く帰れるし、どこか寄るのも
良いかななんて思っていた。そしてはると帰っている途中で「せっかく部活休みだからどっかで話していかない?」とはるに
言った。はるは「そうだね。じゃあ近くのカフェでも行って少しはなそっか」と言ってきた。そしてカフェに着いてゆっくりと
二人のことを話し合った。テストのこと、部活のこと、共通の話題は尽きないので二人で笑い合った。するとふとしたときにはるが
「ねえ。今日ってなんの日だかわかる?」と聞いてきた。少し考えてみたが別になんてことのないただの平日だ。なので俺は
「えー、わかんない。ただの普通の日じゃないの?」と言った。するとはるは「ああ、そっか。それでデートに誘ってくれたわけ
じゃなかったんだ」と言ってきた。なので俺は「今日ってなんかあったっけ?俺の誕生日でもはるの誕生日でもないよ?」と
言うとはるは「男の人ってそういうの意識しないって言うもんね。まぁいいんだけど」と言った後に「今日はね、私と亮介の誕生日
だよ」と言ってきた。俺は最初意味がわからなかった。俺とはるの誕生日?だって俺とはるは生まれた日は違うし、年齢も違う
わけなのだから・・・と思った時に気づいた。そして「あ、もしかして」と言うとはるは「そう。今日は私と亮介が付き合った日
だよ。何か月だね、とか細かいことはいちいちやってこなかったけどね」と言ってきた。今日は二十日なので俺が部活を引退
した日、つまり帰りにはるから告白を受けた日だ。付き合って数ヶ月経つが今まで一か月記念、二か月記念というようなことは
やってこなかった。というのもはるが言ってこなかったし、俺はそこまで意識をしていなかったから当たり前なのだが。そして
はるは「別に記念日だってわけじゃないんだけどね、少しだけプレゼントがあるの」と言ってきた。なんだ?と俺が思っていると
はるが「はい、手紙。亮介のことを思って書いたから読んでみてね」と言って手紙を渡してきた。俺は驚くと同時にこの間俺に
手紙のことを聞いてきたのは今日のためだったのか、と変に納得してしまった。手紙を受け取り、開けて読もうとするとはるが
「ちょっと待って!恥ずかしいから家で一人の時に読んで!」と言ってきた。せっかくもらったんだから、と思ったがはるの
心情を考えたらそりゃ恥ずかしいよな、と思い「ありがとうね。家でゆっくり読ませてもらうね。それとごめんね、俺からは何も
プレゼントを用意してないんだ」と言った。はるは「そりゃ私からのサプライズなんだからそれでいいの。逆にこのタイミングで
プレゼント用意されてたら私がびっくりだよ」と笑いながら言ってきた。俺は温かい気持ちになりながらその日を過ごした。
そして家に帰って自分の部屋に入り、早速と思い手紙を読んでみた。手紙の内容はこうだった。
「いきなり手紙なんて書いてごめんね。今まで手紙をもらったことないって言ってたから、私が初めての人になれるんだって
思ったら我慢できなくてつい書いちゃった。亮介と付き合ってから、楽しいことだらけだったよ。ちっちゃな喧嘩みたいなことは
あったかもしれないけど、今思えばそれもいい思い出だよね。私ね、実は自分のことをあんまり好きじゃなかったの。亮介も
感じてるかもしれないけど、たまに面倒臭いところあるでしょ?だからちゃんと受け入れられるかなって不安だったの。でもね、
亮介はそんな私のことを愛してるって言ってくれた。私は亮介のことを愛してるから、愛してる人が愛するものを否定しちゃ
いけないなって思えたの。だから少しだけ今は自分のことを許せるようになったんだ。色んなことを書こうと思ったけど、
私も手紙なんて慣れてないからあんまり書けないや。でも、これだけは伝えたかったの。私の告白を受けてくれてありがとう。
こんな私と一緒にいてくれてありがとう。これからも、末永くよろしくお願いします。私は一生愛するぞって気持ちだからね。
はるより」
読み終わった時、俺の目から涙が出てきた。今の時代、手紙なんて古いものなのかもしれない。だけどやっぱりメールなどで簡単に
伝えることよりも深く胸に刺さることがあるんだということを実感できた。こんなことを実体験を持って教えてくれたはるに
感謝をしつつ、俺は気が付くと紙とペンを用意していた。はるへの思いを必死に書きつづった。そして翌日、はると帰っていた
時のこと。「昨日、手紙読ませてもらったよ」とはるに言った。はるは「恥ずかしいな、ごめんね?急に手紙なんて書いて」と
言ってきたので「彼女からもらったものが迷惑なわけないじゃん。俺、泣いたんだからね?」と言った。するとはるは
「え?そうなの?なんだ、それなら目の前で読んでもらえばよかったかな」と言ってきた。なので俺は「なんだよ、人の泣く姿が
見たかったのかよ」とからかい口調で言うとはるは「別にそういうわけじゃないけど貴重じゃん」と言ってきた。俺は
「まぁ、手紙を読んだ時にどんな気持ちになるかは読んでみないとわからないよな」と言った。はるは「そうだね。友達との
手紙のやり取りとはまた違うんだろうな」と言ってきたので俺ははるのカバンにすっと自分が書いた手紙を差し込んで「あれ?
はる?カバンの中に何か入ってるよ?」と言った。はるは少し困惑してえ?何?と言っているので俺は「彼氏からの手紙なんじゃ
ないかな」と言った。はるは驚いた顔をしたあと笑いながら「もう。この時点で泣きそうだよ」と言ってきた。少しはサプライズに
なったかな。