今日は学校で三者面談がある。進路のことを親に説明したり、まああとは単純に俺の学校での態度を親に報告したりするらしい。
そのことははるも知っていた。なので今日ははると一緒に帰れそうにない。俺は親と一緒に帰ることになるだろうし、さすがに
現時点ではるのことを親に紹介するというのも、と思ったからだ。そのことをはるに伝えると「確かに、亮介さんと付き合ってます
なんていきなり言ったらびっくりするだろうしね」と納得してくれた。そして三者面談当日。三者面談自体は滞りなく終わった。
俺は別に問題児でもなんでもないし、進路についても当然親には話してあったからだ。親が「うちの子は本当に大学受験に成功
しますか?」と先生に聞いていたのは少し恥ずかしかったけどな。そんなこんなで面談が終わり、親と帰っていた。その時に親と
どんな話をしたかは正直言って覚えていない。俺はずっとはると一緒に帰りたかったな、とぼーっとしていたからだ。そして翌日。
授業が終わって部活の時間になった。俺ははるの部活が終わるまで待っていようと思い体育館に向かった。そしていつも通り
体育館の隅で練習の邪魔をしないように勉強をしていると俺の担任が急いだ様子で体育館に入ってきた。そして俺を見て「中井!
お前携帯は見てないのか?」と言われた。携帯?そりゃ勉強中だからカバンの奥底に置いたままにしてるけど、と思い携帯を見ると
親からおびただしい量の着信があった。俺はなんだ?と思い担任を見ると「お前のお兄さんが事故にあったらしい。それでお前に
連絡をしてるけど一向に連絡がつかないってことでお前のお母さんから学校に連絡があったんだ。すぐに親御さんに連絡して
あげてくれ」と言ってきた。俺は慌てて親に電話した。すると「亮介!良かった!お兄ちゃんが事故にあったの!早く病院に
来て!」と言われた。こうなっては俺も慌てて支度をした。さすがに今日ばかりははると一緒に帰りたい、なんて言えないので
すぐに病院に向かった。そして病院に着くと兄が「おお亮介、どうしたの?」と普通に歩きながら言ってきた。俺はえ?怪我は?
と思い兄に「いや、兄ちゃんが事故ったって聞いて急いできたんだけど」と言った。兄は笑いながら「あー。そっか。心配かけて
悪かったな。事故ったって言ってもゆっくり走ってた車と少し当たっちゃっただけだよ?」と言ってきた。いやいや、とはいえ
事故なんだから、と思っていると「でさ、相手の人がすっげー大げさでさ、俺がぶつかって倒れたのを見て一大事だと思った
らしくて救急車!とか騒ぐんだよ。俺は大丈夫だって言ったんだけど全然聞いてくれなくてさ」と笑いながら続けた。さらに
「んで救急車で運ばれてる時もすっげー意識の確認とかしてくるしさ、親の連絡先教えて!とかめっちゃ言ってくるから
教えたら大騒ぎだったみたいだよ。奥に母さん座ってるけど母さんも大ごとのように伝えられてたみたいで今は魂が抜けてるよ」と
言った。最後に「検査はしたけどなんともなかったよ。あ、でも倒れた時に少し肘をぶつけたから湿布貼っといてくださいってさ」
と言ってきたので俺は「事故だって聞いたからびっくりしたよ。気を付けてよね。何事もなくてよかったけどさ」と言った。
そしてその日は終わった。次の日に学校に行くと担任が「中井!お兄さんの様子は大丈夫だったのか」と聞いてきたので俺は
「大げさだったみたいで特になんともないみたいですよ。入院とかもしなかったんで大丈夫です」と言った。担任はほっと
一息ついて「良かった。わざわざ学校に連絡があったから大変なことになったのかと思ったよ」と言ってきた。家族だけなら
まだしも他人にまで迷惑をかけるなんて、事故を起こした人は大げさだな、なんて思いながらその日を過ごした。そして授業が
終わったのではると一緒に帰ろうと思った。今日は部活が休みの日なのではるとすぐに帰れる。二日間一緒に帰れなかったことを
寂しがってるだろうな、と思いはるの教室に向かった。そして「一緒にかえろっか」と言っていつものように帰った。帰り道では
やはり兄の話題になった。大ごとにならなくて良かったとはるが言ってきたので俺は「そうだね。でも俺の家族のことだから
そこまで気にしなくてもいいのに」と言うとはるは「亮介の家族のことだから気になるに決まってるでしょ!それに」と言って
口ごもったので俺は「何?男は全て私のものだ!ってか?」とからかうような口調で言うとはるは「それに!亮介のお兄さんって
ことは私の将来のお兄さんかもしれないじゃん!」と言ってきた。俺はそれを聞いて少し笑ってしまった。単純にそんなことを
考えてくれたことが嬉しかったし、それをわざわざ言わせてしまった自分がふがいなかったからだ。なので俺は「いやいや、それは
間違ってるよ」と言った。はるは心配そうな顔をして「え?どういうこと?」と聞いてきたので「将来ははるのお兄さん「かも」
じゃなくて将来ははるのお兄さん、だよ」と言った。はるは「もう」と言いながら少し嬉しそうな顔をしていた。そして俺は
「俺と二日間一緒に帰れなかったけど、寂しくなかった?」と聞いた。はるは「え?だって仕方ないことだからさ」と言ってきた。
俺は少しそのことに寂しさを覚えた。この間はるが修学旅行に行った時はあんなに寂しかったのにな、と思っているとはるは
「あー、はいはい。寂しかったって」と言ってきた。俺はなんで急に?と思っていると「ほんと、亮介って顔に出やすいよね」と
はるが言ってきた。なので俺は「あー。はるが寂しくないって言ったことに対して不満そうだったから寂しかったって言って
くれたの?」と聞いた。はるは笑いながら「そんなわけないじゃない。そりゃ私だって寂しかったけど、本当にしょうがないこと
だったからわがまま言っちゃいけないって思ったの」と言ってきた。俺は「確かにわがままを言われたら困っちゃったかも
しれない。だけど寂しかったって伝えるくらいしてくれてもいいのに」と言うとはるから一言「だってそうやっていったら亮介は
今後無理しちゃうでしょ?読み取ったのよ」と言ってきた。この子には勝てそうもない。