「中井って人当りがいいよな」とある時友達に突然言われた。俺は最初理解ができず「ん?どういうこと?」と問いかけた。
すると「困ってる人がいたら助けないわけにはいかないだろ?」と聞かれた。なので俺は「当たり前じゃん。逆にお前は
助けないの?」と聞き返すと「それは状況によるじゃん。俺だって暇してたら助けてあげるけど、中井ほどじゃないよ」と
言われた。そんな覚えはないんだけどな、と思っていたその日の帰りのこと。はると一緒に帰っているとはるが「亮介って
すごく人当りがいいよね」と言ってきた。俺は笑ってしまい「それ、今日友達にも言われたんだけど」と言った。するとはるは
「誰が見てもそう思えるってことだよ。でもあんまり人当りが良すぎるのも考え物だよ。ちゃんと断りたいときは断らないとね」と
言ってきた。俺は「いや、別に無理をしていた覚えはないんだけど・・・」と言うと「それでも少しは気を付けてね」と
言ってきた。彼女からこう言われたのだから仕方がないかな、と思っていた。ただし気を付けると言ってもどうしたらいいかは
わからなかったのでそれ以降も俺としては普通に過ごした。そんなある日のこと。はると一緒に帰っていると「亮介ー!」と言う
声が。なんだ?と思っているとそこには俺のいとこにあたる子どもたちの姿が。俺のいとこは3人兄弟で、誰もがみんな俺に
すごくなついている。一番上の子でもまだ4歳なのでこれから大きくなっていく子どもたちを見ると俺は元気がもらえた。
だがなぜこんなところにいとこたちが?と思っていると奥に叔母の姿が。「たまたま近くを通ったところで子どもたちが亮介の
ことを見つけて走り出したのよ」と言ってきた。そういうこともあるよな、と思っているといとこたちが「亮介!だっこー!」と
抱っこをねだってきた。なので俺はいつものように「はいはい」と言いながら3人同時に抱っこした。それを見たはるが
「え?大丈夫なの?」と聞いてきた。俺は「え?なにが?」と聞くとはるは「だって3人同時に抱っこなんてして、重たく
ないの?」と言ってきた。なので俺は「重たいけど・・・誰かを優先して抱っこしてあげるって選択肢が俺にはなくてさ。だから
それならってことで全員いっぺんに抱っこしてあげてるんだ」と言った。それを聞いたはるは「あー。だから・・・」と言って
笑っていた。俺は意味がわからず「なんで笑ってるの?」と聞くとはるは「いーえ。なんでもありませんよ」と言ってきた。
意味はよくわからなかったがはるが笑っているならいいかと思いそのままにしておいた。そしてその日はいとこたちと別れて
はると一緒に帰るだけで終わった。さらに翌日のこと。はると一緒に帰っていると突然「すみません」と声をかけられた。
なんだ?と思って振り返るとそこには老婆の姿が。俺はなんでしょう、と聞くと「以前、私が重たい荷物を運んでいるときに
手伝ってくれましたよね」と言ってきた。あー、そんなこともあったなと思って「はい、そうですけど」と言うと老婆が「今日は
その時のお礼をしにきました。若い男性なのでこんなものを受け取っても嬉しくはないかもしれませんが、自家栽培なので」と
言って花束を渡してきた。俺は「いえいえ、そんなそんな。結構ですよ」と言った。すると老婆は「あら、やっぱりこんな
おばあさんから花束なんてもらっても嬉しくなかった?」と言ってきたので俺は「花束が嫌だとかそんなことは一切ありません。
でも俺はただ自分のしたかったことをしただけなので」と言うと老婆は笑って「じゃあ、私もしたいことをしますね。受け取って
もらえませんか?」と言われた。そう言われては断るわけにはいかないので「ありがとうございます」と言って花束を受け取った。
そして老婆は「花束は捨てても構いませんからね」と告げてにこやかに去って行った。一部始終を見ていたはるが「そんなこと
してたんだね」と言ってきた。なので俺は「ああ。でもおばあちゃんが大変そうにしてたら助けてあげるのは当たり前だろ?」と
言った。はるは「そりゃ亮介にとっては当たり前かもしれないけど・・・うん。私もこれからは少しだけ周りに手を差し伸べよう
かな」と言ってきた。なので俺は「え?はるだって困っている人がいたら助けたいって思うだろ?」と言った。それに対してはるは
「もちろんそれはそうだけど、亮介ほどじゃないの。だけどこれからは少し亮介のことを見習おうかなって思って」と言ってきた。
なので俺は「こないだは人助けしすぎだとか言ってたくせに・・・」と言うとはるは「こうやってお互いの良いところを吸収
しあって成長していくのもカップルでしょ」と言ってきた。まぁそれはそうだよな、と思いふとはるに「ちなみにはるってさ、
花は好き?」と聞いた。はるは「そりゃ私だって女なんだから花が嫌いなわけないよ。あ、まさか」と言ってきたので俺は笑って
「じゃ、この花束受け取ってくれない?」と言った。はるは戸惑った顔をして「え?でもいいの?亮介がもらったものだよ?」と
言うので俺は「だってあのおばあさんは好きにしていいって言ったじゃん。俺の好きにするってことは、好きな人にあげるって
ことだよ」と言った。はるは花束を受け取るとすごく嬉しそうに「わあ。ありがとう。亮介から初めて花束もらっちゃった」と
言ってきた。さらに続けて「情けは人のためならず、だね」と言ってきた。それを聞いた俺は「え?情けは人のためにならない
・・・ってそっちの意味じゃねえな、本来の意味か」と言った。はるは笑って「そう。情けは誰かのためじゃなくって自分のために
なるよって意味ね」と言ってきたので俺は「国語、ちゃんと勉強してるじゃん」と言うと「そりゃ、亮介の彼女ですから」と
はるは言った。