ある日のこと。はると一緒に帰っているときのこと。近くをちょうちょが飛んでいたので「あ、ちょうちょが飛んでるね」と
言った。するとはるはすごくびっくりしたような怯えたような顔をしている。俺が「どうしたの?」と聞くとはるが「私ね、虫が
苦手なの。アリで限界ってくらいだから他の虫はもう全部無理なんだ」と言ってきた。まぁ虫が嫌いな人くらいいるよな、と思い
「そうなんだね」と言うとはるが「ごめんね、弱い女で。嫌いになった?」と聞いてきたので「俺はしいたけを食べるのが苦手
なんだけど、はるは俺のこと嫌いになった?」と返した。はるが「そんなわけないじゃん。むしろ亮介に何か作ってあげる時に
しいたけを入れないようにしようかなって思ったくらいで・・・あ」と言ってきたので俺は「そういうこと。虫に何かされるような
ことがあったら助けてあげたいなとは思うけど嫌いになるわけないじゃん」と言った。はるは笑いながら「そこは嫌いになるわけ
ないだろってびしっと言ってよ」と言ってきたので「すみませんね、性格なもんで」と俺もつられて笑った。そんなことがあった
ので俺は今後は気を付けようと思った。そして翌日のことである。はると一緒に帰っているとはるの肩にとんぼが止まった。
あ、とんぼが止まったな、くらいにしか思わなかったがはるは虫が嫌いなのだ。ここで俺が「とんぼが止まってるよ」なんて
言ったらきっとパニックになってしまうかもしれない。そう思った俺ははるに「ねえはる、こっちを向いて」と言った。
はるは「え?なに?」と言ってこっちを向いてきた。そして「え?まさかここでキスでもする気なの?いくらなんでも帰り道で
キスなんてしたら誰かに見られちゃうかもしれないよ?」と言ってきた。なので俺ははるにそっと近づいた。はるは「え?え?
本当にするの?」と言ってきたので俺ははるの肩に止まっているとんぼを掴んだ。そして距離を置いて「ごめんね。肩にとんぼが
止まってたから・・・。肩にとんぼがいるよ、なんて言ったらパニックになると思ってそっと取りました」と言ってとんぼを
離した。とんぼは当てもなくどこかへと飛んで行った。それを見たはるが「もう。そういうところが大好きだよ」と言って
抱き着いてきた。俺は慌てて「おいおい、今は帰り道だって」と言うと「ごめんね、でも我慢ができなかったの」と言ってきた。
そういうところが可愛いのだがと言って抱き着いたままで誰かに見られたら突っ込まれるだろうなと思いはるを離した。そして
「こういうことは場所をわきまえてやろうな。いつも言ってるだろ?TPOだって」と言った。はるは笑いながら「はい、ごめんね。
でもそんなことを言ってる割には嬉しそうな顔してるけどね」と言ってきたので「彼女に抱き着かれて嬉しくない男がいるわけ
ないだろ。でも場所は考えような」と言った。というかそれを言うだけで精いっぱいだった。