なるほど。噂は当てにならないらしい。
 期待に応えられない、と言った目で申し訳なさそうに眉を下げている様子に、少々心が痛んだ。

「そんな顔をしないでください。珠緒さんのような綺麗な人に会えただけで十分ですよ。…あっ!これ、セクハラですかね。すみません」
「いえいえ。私も、この宿で若い男性のお客さんとお話しできる機会はそうそうありませんから楽しいです」

 好意的なセリフに舞い上がりそうになる。自分でも惚れやすい性質(たち)であるとわかっていたが、勘違いしそうになるほど彼女は優しかった。
 自慢できるようなことではないが、昔から女運というものがめっきりなかった。好きになる女性は皆、出会った頃から誰かのものであったり、貢がれ目的であったり、二十六となった今年はついに結婚詐欺の被害に遭いかけたこともある。
 もちろん全員本気で愛していたし、遊びなんかで付き合ったりはしない。
 だが、誘われれば乗せられやすい単純な性格で、欲しいものをねだられればなんでも買ってしまうような天性の“カモ体質”だという自覚はあり、女運がない理由を挙げればキリがなかった。