あぁ、こいつと話していると調子が狂う。めげずに付きまとわれた挙句に純粋な好意に振り回されるその感覚は、どこか懐かしい。
隣へ視線を落とすと、承諾してくれたのかと尻尾を振り出す柴犬が見えた。きっと、こっちの苦悩は何も分かっていないのだろう。
「門澤さん、連絡先を教えてください。俺のは名刺に書いてあるやつなのでいつでもかけてくださいね」
「あー、うるさい。これでいいか」
「ありがとうございます…って、これペット用品店のフリーダイヤルじゃないですか!」
差し出した手帳にサラサラと書いたものを嬉しそうに見つめた“自称助手”は、その羅列を読んだ瞬間に声を上げた。
CMで目にする機会が多く、独特の歌で番号を脳にすり込んでくる有名な会社のダイヤルはさすがに気づかれたようだ。
騙されやすいこいつをからかうのも案外悪くないかもな。突き放せない俺も大概流されやすい男だ。
隣でプンスカ怒りだす姿に思わず表情が緩み、つい連絡先を教えてしまった。
数日後、臨場感のある写真を載せた“祓い屋の怪奇譚”が思いのほか好評で、次号の枠をもらえたなんて連絡が来たのは予想外である。
「今回は山だったので、次は海の方にいきます?俺、立派に助手を務めますね」
嬉々として取材先の住所を告げられた。勝手に話を進めようとする千秋に向かって電話越しに叫ぶ。
「俺は助手などいらない!」
ー完ー
