しばらくついていくと、彼女は角部屋のふすまを開けた。
 部屋の中は外観の雰囲気をそのままに、予想通り狭い。低めの机と座椅子、一組の布団。障子窓の向こうは一面に山が広がっている。正直、綺麗とは言い難いが“趣がある”と思えば苦ではないし、Wi-Fiがあることがせめてもの救いだ。

「これ、狐ですか?」
「はい。この地域は昔から狐の妖の伝承があるんです」

 宿につきものである掛け軸には、白狐の絵が描かれていた。
 “噂通り”、ここは妖の伝承があるらしい。
 その時、熱心に絵を眺めていた俺の耳に鈴のような笑い声が聞こえた。視線をやると、表情を緩めた彼女がこちらを見ている。

「何かおかしいですか?」
「あっ、いいえ。すみません。この宿にお客さまがいらっしゃるのは久しぶりなものですから嬉しくて」

 可愛い。第一印象から品のある落ち着いた年上の女性だと思っていたが、表情をほころばせる彼女は若々しく、目を()かれる色気があった。