…と、頭の中に居座る記憶に苛立ちが募ったその時。畳の軋む微かな音を耳が拾った。
「寝込みを襲うとは品がないな」
気配もなく側に寄っていた女の手を掴む。夢の中にいると思っていた男が起きていたことにひどく驚いたようだ。
目の前に見えたのは狐の耳と髭。顔と体はかろうじて人間のままだが、すでに自らの正体を隠す気もないらしい。
力尽くで押さえ込んで布団に押し倒すと、マウントを取られた白狐はなんとか抵抗しようとしたがそれほど強くない。妖と言えど、人間の女性くらいの力しか持っていないのか?
歯を食いしばってこちらを睨む珠緒。
滅するための札は枕の下に忍ばせてある。これだけの体格差があり力も優っているのなら、祓うことは簡単に思えた。
