ウチはそこそこ名の知れた力のある神が祀られており、祓い屋を頼って全国から依頼人が集まるほど参拝客が多かった。それを知ってか、何度も実家に連れて行ってくれとせがまれ、一度案内すれば気が済むかと承諾したのが悪かった。その日から、綾はいつのまにか身内と顔見知りになって、たまに遊びにきては茶を飲んでいくような仲になったのだ。
当時の俺はもちろん祓い屋を継ぐ気はなく、妖なんて奇怪な存在とは早く縁を切りたくて仕方がなかった。半ば反発するように家を出て大学の近くにアパートを借りたのだが、安さだけで決めたら、地縛霊やらなんやらが湧きでる事故物件であったことは今でも悔やまれる。
心荒れる日々、唯一癒しとなったのは綾だ。初めは学内でも目立つ容姿で性格も明るく朗らかだった高嶺の花が近くをチョロチョロするようになって面倒だったが、優しくて素直な彼女といるうちに、側にいることが落ち着くようになっていた。
「ねぇ、碧羽くん。私が門澤 綾になったらどう思う?」
「は?」
「そんな怖い顔しないでよ。冗談だから。でも、白無垢を着て神前式って憧れるな」
神社に嫁ぐために俺を利用しようとした女は初めてだ。こっちに対しての好意は何も明言しないところが少々腹立たしかったが、そういうところも彼女に惹かれる理由の一つだったのかもしれない。