「そういえば、今朝も山のふもとで倒れていた方がいてねぇ。お父さんがリアカーで運んできたもんだから朝ご飯を食べさせてやったんだけど、すごく愛想がいい子だったわ。素直で礼儀正しくて、まるで柴犬のような…」
柴犬…?あぁ、昨日のアイツか。
何故だか、すぐにピンときた。明るい茶色の短髪に人懐っこそうな童顔。それに加え、表情がコロコロ変わるものだから、考えていることがわかりやすい。柴犬っぽいと言われれば納得がいく。
あえて他に分かりやすく例えるなら、三角関係で決してヒロインとは結ばれない幼なじみで、“君が幸せなら僕も幸せ”なんてお決まりのセリフを吐いて泣く泣く背中を押す、当て馬のような印象を持った。
昨夜も、妖の様子を密かに追う途中、宿の玄関先で起きた一部始終を二階から見張っていたのだが、アイツは狐火から女性を守る度胸と男気はあるものの、少しでも色仕掛けをされたら動揺して良いように流されてしまっていた。
突っぱねられない優しい男というよりは、ただのヘタレだ。
この家にはすでにいないようなので、大人しく帰路についたらしい。