「じいさん。ここらに出る白狐の噂はいつ頃から有名なんですか?」
「ハァ?なんじゃって?」
午前十時。このやりとりを繰り返して早十回。さすがに痺れを切らし、縁側で大声を上げる。
「だから、妖の噂はいつから有名になったかって聞いているんです!」
「アヤカなんて娘はウチにはおらんよ」
「だー、もうやめだ!」
宿を出た後、山に現れる狐火に札を投げつけながら祓っていた。目当ての白狐は夜になるまでヒトに擬態をして尻尾を出さないため、時間潰しにふもとの民家で情報収集をしようとしたのが運の尽きだ。
噂の詳細を調べようとしても、村の住民は耳が遠い高齢者ばかりで会話が成り立たない。それなのに、自分の話はウンタラカンタラし始めるものだから頭を抱える他なかった。
なんだこの村は…!話がまともにできる奴はいないのか!
「すみませんねぇ。お父さん、ちょっとボケも入っているんですよ。久しぶりに話し相手ができて嬉しいんだと思います」
ニコニコと洗濯物を干しに来た年配の女性に、そう声をかけられた。数軒まわってやっと日本語を喋る人と会えた気がする。