「すまない。説明もなしに悪かった。だが、命を助けてやったんだから感謝くらいはしたらどうだ」

 涼しげな外見からは想像つかないほど高圧的な口調。つい、ムッとする。なんだこの男。

「命を助けただって?むしろ邪魔されたようにしか思えないけど…」
「まさか、あの女が白狐だと気づいてなかったのではあるまいな?」
「白狐?」

 眉を寄せると、その反応にこちらの状況を察したような彼は深くため息をついた。それはもう大きな。

「お前が抱こうとしていた女は、ここらで噂になっている妖だ。もし俺が助けに入らなければ、お前は今ごろあの世だぞ」

 こいつは何を言っている?とても信じられない。あの珠緒さんが妖だって?
 激しく戸惑う中、髪をかき上げてこちらを睨んだ男は、低い声で言葉を続けた。

「俺は門澤 碧羽(かどさわ あおば)。妖専門の祓い屋で、あの白狐を滅するためにここに来た」

 門澤と名乗った男は、自らの素性をそう明かす。聞いて一番初めに思ったことは、“ 胡散臭(うさんくせ)ぇ”だった。
 なんだ、祓い屋って。そんな職業聞いたこともないし見たこともない。こいつは詐欺師?それにしては金目のものを奪おうとも脅そうともしてこない。そもそも、詐欺師なのだとしたらもう少し初対面で良いように繕うだろう。