むしろめちゃくちゃ望ましい展開だけど…!
 そんな邪念が頭をよぎった瞬間、腕を引かれて部屋に入った。不意打ちで抵抗する間もない。そのまま流れるように抱きつかれ、バランスを崩して倒れ込んだ。
 背中には布団。腕の中には着物越しに柔らかい感触が伝わってくる。

「た、珠緒さん!まずいですって…!」

 顔を上げると、綺麗な彼女と至近距離で目が合う。あれ?いつのまにか押し倒されている?
 歳上の彼女は思っていたよりも数十倍は積極的だ。慣れているのか?いや、肩を抱いただけで恥じらっていた姿からは想像もできない。
 それよりも、今日出会ったばかりなのにこの先に進んでいいのか?もちろん、惚れやすくも女性には誠実に向き合ってきた俺は、恋人でもない人と致したことはない。
 いや、だが、これは据え膳?彼女がとても勇気を出して誘ってくれているなら、断るのは男の恥なのか?どうなんだ!わからない!急にいろいろなことが起こりすぎて、頭がパンクしそうだ。

「今夜だけでも…だめですか…?」

 ぽつりと聞こえた声がトドメだった。
 ダメなわけがない。この取材が終われば、二度と彼女と会う機会はないだろう。いや、この際責任をとって正式に交際を申し込もうか。
 体に触れまいとしていた腕を背中乗せたことで、こちらの気持ちを察したらしい彼女。
 そっと白く長い指が頬に添えられ、見たこともないほど妖麗な笑みが近づいた…その時だった。