はい?
 予想を遥かに超えた展開に目玉が飛び出そうになった。これは現実?まだ狐に化かされている?
 つい混乱状態に陥るものの、泣き出しそうな上目遣いで見上げる女性は本物で、早鐘のように鳴り出した心臓の音も夢ではなかった。

「あっ、あの、珠緒さん?」
「すみません。あんなのを見たのは初めてで、怖くて体が震えてしまって」

 小刻みに震える指。到底信じられないような光景を目の当たりにした上に狐火に襲われたのだ。無理もない。
 でも、この状況は…!

「えーっと、ほかに従業員の方はいるんですよね?その方たちの側にいたほうが落ち着くんじゃありませんか?」
「住み込みで働いているのは私だけなんです」

 ということは、この宿に今ふたりきり?いや。もうひとり男性客がいるんだった。だが、夜も更けていて泊まっている部屋が階で分かれているのなら、この騒ぎに気づいていない可能性もある。
 その時、トンと珠緒さんが俺の胸に寄り添った。すがるような仕草に体温が上がる。


「迷惑…ですか?」
「いやっ!迷惑とかそういうんじゃ…っ!」