「おい、お前」

 低い声で凌真に声をかけられ、千歳は肩をびくっとさせる。

「雪女に連絡はしたのか?」
「はいっ、しました。リノベーションするお部屋があるから、ぜひ見て欲しいってお話したら、三週間後に見に来たいとおっしゃってました」
「三週間後か……まぁ、なんとかなるだろ」
「気に入れば、その一週間後には入居したいそうなんですが」
「大丈夫。山さんは腕がいい上に仕事も早いんだ。問題ない」

 すごい自信だけど、大丈夫だろうか。期待と不安がごちゃ混ぜになる。

「ああ、そうだ。お前どうせ暇だろ?」

 当たり前のように言われて腹が立ったが、たしかに暇だ。雪女以降、お客さんは一度も来ていない。

「この部屋の家具も新しくしようと思って。なんか似合いそうなやつ、探してきてくれよ」
「え、私が?」
「他に誰がいるんだよ」
「でも……」

 千歳はちらっと凌真の顔を見上げた。いつもむすっとしていて、やる気のなさそうなこの人が、そんなすごい人だったなんて……だったらこんな自分なんか必要ないと思ってしまう。

「いいから探してこい。海っぽいやつだぞ。わかったな?」
「はい……」

 機嫌悪そうな凌真の前で、千歳はしぶしぶうなずいた。