「あ、それは……」

 千歳は山嵐の持っている紙に目を止めた。

「ああ、これ? この部屋の図面とパース。こんな感じに改装してくれって言われて」

 山嵐が持っていた図面と手書き風のパースを見せてくれた。間取りは凌真が言っていたように1LDKに変わっていて、床はしっとりとした木目調、壁は落ち着いた薄い青、天井は爽やかな白で描かれている。

「わぁ、素敵」

 こんな部屋なら雪女も喜びそう。むしろ千歳も住みたいと思う。

「それ描いたの、凌ちゃんだよ」
「えっ」
「こっちの図面もね」

 千歳は驚きのあまり、紙を落としそうになった。

「凌ちゃんは一級建築士だから。この前まで都内の大手建築設計事務所で働いてたんだよ」
「そ、そうだったんですか?」
「あれ、知らなかったの、お嬢ちゃん。凌ちゃんは不動産業で必要な宅建も持ってるし、優秀なんだ。おまけにイケメンでしょ? 東京ではきっとモテモテのイケイケだっただろうねぇ」

 そう言って山嵐は、またわははっと笑う。千歳は苦笑いしながらつぶやく。

「それなのに、あのお店に戻ってきたんですね? お父さんが亡くなって」
「ああ、あの親子、いろいろあったみたいだけど、やっぱり親父の店はなくしたくないと思ったんじゃないかな」
「山さん」

 突然後ろから声が聞こえた。千歳があわてて振り返ると、そこに凌真が立っていた。いつも以上に不機嫌そうな顔をしている。

「しゃべり過ぎ」
「いやぁ、悪い悪い。かわいい子相手だと、つい口が軽くなっちゃって」

 凌真はじろっと千歳をにらむと、千歳の持っていた図面を取り上げ、山嵐の胸に押し付けた。

「ちゃんと仕事してください」
「はいはい、わかってるって」

 山嵐が頭をかきながら、部屋の中に入っていく。中には数人の若い職人さんがいて、壁を壊し始めていた。