数日後、千歳は物音で目が覚めた。マンションの中が何やら騒がしかったのだ。何ごとかと思って部屋の外へ出ると、上の方の階から工事をしているような音が聞こえてきた。
千歳は階段を駆け上がる。それは最上階の部屋から聞こえてきた。雪女に貸そうとしていた501号室だ。
開いているドアから中をのぞき込もうとしたら、作業着姿の男性が出てきた。よく日に焼けていて、体格の良い、年配の人だった。
「あっ、もしかしてうるさかったかい?」
男の人は千歳を見て、幼い子に話しかけるかのように、目を細めて言った。
「このマンションの住人さんかな? 朝っぱらから騒がしくして悪かったね」
「い、いえ……」
千歳は首を横に振る。どうやら部屋の中で解体工事をしているようだ。もしかしてリノベーションをもう始めたのだろうか。
「私、202号室の神楽坂です。下の『いざよい不動産』で働かせてもらってます」
「ああ、お嬢ちゃんが新しく入った従業員さんかい」
男の人は千歳の顔をのぞきこみ、白い歯を見せてにかっと笑う。
「これはまた、凌ちゃんもかわいい子を選んだもんだ」
『かわいい』なんて言われ、千歳は照れくさくなる。でももしかしてこの人の言う『かわいい』は、『幼い』という意味なのかもしれない。
それにしても『凌ちゃん』って……あの凌真のことだろうけど。
「俺は『山嵐工務店』の山嵐っていうんだ。朔太郎さんとは古い付き合いでね。その息子の凌ちゃんの頼みだったら、引き受けるしかないよなぁ。まぁ、だいぶ無茶ぶりされたけど」
「す、すみません」
なんだか申し訳なく思い、千歳はあわてて頭を下げた。山嵐は大きな声でわははっと笑う。
きっとこの人が、凌真の言っていた『腕のいい大工』なんだろう。前にペンキを分けてもらったというのも、山嵐が関係しているのかもしれない。
千歳は階段を駆け上がる。それは最上階の部屋から聞こえてきた。雪女に貸そうとしていた501号室だ。
開いているドアから中をのぞき込もうとしたら、作業着姿の男性が出てきた。よく日に焼けていて、体格の良い、年配の人だった。
「あっ、もしかしてうるさかったかい?」
男の人は千歳を見て、幼い子に話しかけるかのように、目を細めて言った。
「このマンションの住人さんかな? 朝っぱらから騒がしくして悪かったね」
「い、いえ……」
千歳は首を横に振る。どうやら部屋の中で解体工事をしているようだ。もしかしてリノベーションをもう始めたのだろうか。
「私、202号室の神楽坂です。下の『いざよい不動産』で働かせてもらってます」
「ああ、お嬢ちゃんが新しく入った従業員さんかい」
男の人は千歳の顔をのぞきこみ、白い歯を見せてにかっと笑う。
「これはまた、凌ちゃんもかわいい子を選んだもんだ」
『かわいい』なんて言われ、千歳は照れくさくなる。でももしかしてこの人の言う『かわいい』は、『幼い』という意味なのかもしれない。
それにしても『凌ちゃん』って……あの凌真のことだろうけど。
「俺は『山嵐工務店』の山嵐っていうんだ。朔太郎さんとは古い付き合いでね。その息子の凌ちゃんの頼みだったら、引き受けるしかないよなぁ。まぁ、だいぶ無茶ぶりされたけど」
「す、すみません」
なんだか申し訳なく思い、千歳はあわてて頭を下げた。山嵐は大きな声でわははっと笑う。
きっとこの人が、凌真の言っていた『腕のいい大工』なんだろう。前にペンキを分けてもらったというのも、山嵐が関係しているのかもしれない。