「いいかもな、それ」
「え、ほんとですか!」

 千歳は目を丸くした。ケチな凌真を説得するのは、なかなか難しいと思っていたからだ。

「台所と奥の和室の仕切りをぶち抜けば、広いLDKになる」
「日当たりもさらによくなりますね」

 壁がなくなることにより、ちょっと薄暗かったキッチンまで明るくなるだろう。

「ついでにもう一つの和室も洋室にしよう。床はフローリングにして、クロスも張り替える。あの古くさい押入れもクローゼットに変えるか。イメージは……海だっけ?」
「そ、そうです。夏を味わえるように」
「おかしな雪女だな」

 凌真がふっと鼻で笑う。なんだかちょっと楽しそうに。
 だけど千歳は心配になった。思ったより大胆にやるつもりみたいだが、予算のほうは大丈夫なのだろうか。リノベーションの話を口にしたのは、この自分だけど……

「腕のいい大工がいるんだ。頼めばすぐにやってくれる」
「ほんとですか?」
「ああ、親父の知り合いで……」

 そこまで言って、凌真は口をつぐんだ。そしていつも胸に下げている、シルバーのリングを右手で握る。

 千歳はその手をじっと見つめた。リングのペンダントだと思っていたそれは、シルバーの指輪をチェーンにつけたものだと最近知った。
 凌真はこの指輪を毎日胸に下げている。千歳はずっと気になっていたのだが、なんとなく聞いてはいけないことのように思えて聞けずにいたのだ。