「誰がするんだよ」
「大家さんが、です」
「俺が?」
「はい。このマンション、お部屋によっては丁寧に修理してますが、五階はほとんど手付かずですよね」
千歳が確認したところ、五階は床も壁も古いままで、修繕が必要な箇所もある。
「間取りも2DKですし、ちょっと最近の主流ではないというか……中には貧乏神さんみたいに古い家を求める方もいますが、若い方には新築や築浅がやはり人気なんです」
凌真は黙って、千歳の声を聞いている。
「ですからリノベーションで、1LDKの素敵なお部屋にすれば、物件の価値も上がります。もし雪女さんが解約されても、次の入居者さんが決まりやすいと思うんです」
凌真が考え込んだ。
「雪女さんは、朔太郎さんのことをずっと覚えていてくれて、それでまたこのお店に来てくださったんです。だから雪女さんにはぜひ、このお店で喜んでいただきたいんです」
「お前……人ごとだと思って……」
凌真がぎろっと千歳をにらむ。千歳はきゅっと肩をすくめる。
部屋の隅で眠っていた猫又が「にゃー」と鳴いて起き上がった。そして凌真から千歳を守るように、カウンターの上に飛び乗る。
「大丈夫だよ、猫又」
千歳が猫又の顎をなでると、猫又は目つきをゆるめて喉を鳴らし始めた。
「なにやってんだよ」
「猫又が来てくれたんです。私が凌真さんに怒られるかと思って」
凌真はまた「ちっ」と舌打ちをする。
「怒ってねぇよ。べつに」
「わかってます。凌真さんの目つきが悪いのも、ふてぶてしい態度なのも、全部通常運行なんですよね」
凌真が千歳をにらむ。だけど千歳はにこっと微笑む。慣れてきたのか、千歳は凌真ににらまれても怖くなくなってしまったのだ。
凌真は椅子にもたれて少し考え込んだあと、小さな声でつぶやいた。
「大家さんが、です」
「俺が?」
「はい。このマンション、お部屋によっては丁寧に修理してますが、五階はほとんど手付かずですよね」
千歳が確認したところ、五階は床も壁も古いままで、修繕が必要な箇所もある。
「間取りも2DKですし、ちょっと最近の主流ではないというか……中には貧乏神さんみたいに古い家を求める方もいますが、若い方には新築や築浅がやはり人気なんです」
凌真は黙って、千歳の声を聞いている。
「ですからリノベーションで、1LDKの素敵なお部屋にすれば、物件の価値も上がります。もし雪女さんが解約されても、次の入居者さんが決まりやすいと思うんです」
凌真が考え込んだ。
「雪女さんは、朔太郎さんのことをずっと覚えていてくれて、それでまたこのお店に来てくださったんです。だから雪女さんにはぜひ、このお店で喜んでいただきたいんです」
「お前……人ごとだと思って……」
凌真がぎろっと千歳をにらむ。千歳はきゅっと肩をすくめる。
部屋の隅で眠っていた猫又が「にゃー」と鳴いて起き上がった。そして凌真から千歳を守るように、カウンターの上に飛び乗る。
「大丈夫だよ、猫又」
千歳が猫又の顎をなでると、猫又は目つきをゆるめて喉を鳴らし始めた。
「なにやってんだよ」
「猫又が来てくれたんです。私が凌真さんに怒られるかと思って」
凌真はまた「ちっ」と舌打ちをする。
「怒ってねぇよ。べつに」
「わかってます。凌真さんの目つきが悪いのも、ふてぶてしい態度なのも、全部通常運行なんですよね」
凌真が千歳をにらむ。だけど千歳はにこっと微笑む。慣れてきたのか、千歳は凌真ににらまれても怖くなくなってしまったのだ。
凌真は椅子にもたれて少し考え込んだあと、小さな声でつぶやいた。



