「どうかしら？　朔太郎さんはいろんなお部屋を内見させてくれたんだけど」
「そうですね……最近はあやかしさんの住むお住まいが限られているもので……」

　雪女が「そうね……」とつぶやく。

「私たち、人間が街を作るよりもっと昔から住んでいるのに、だんだん住む場所を奪われてしまって……最近は仲間たちもどんどん居場所をなくして、街から出て行ってしまうのよね」

　雪女はそう言うと、寂しそうに笑った。
　その顔を見たら、千歳はなんとかしてあげたいと強く思った。

「また来ますね。転勤は一か月先だし。おすすめの部屋が見つかったら連絡ください」

　雪女はそう言って千歳に名刺を渡した。人間が持っている名刺と同じものだ。知らない会社の名前が書いてある。雪女はあやかしたちの勤務する会社の、ＯＬなのかもしれない。
　千歳は名刺を持っていなかったので、雪女に告げた。

「私は『いざよい不動産』の神楽坂千歳と申します。必ず素敵なお部屋をご紹介させていただきますので」

　雪女はにっこり微笑むと、凌真の顔をちらりと見てから店を出て行った。