「じゃあお願いしようかしら」

 雪女がそう言って微笑む。

「雪女さんは、どんなお部屋に住みたいと思ってらっしゃいますか?」
「そうねぇ……」

 千歳はドキドキした。あやかしの年齢などよくわからないが、雪女は千歳より少し年上くらいの若い女性に見える。
 『メゾンいざよい』ははっきり言って古いから、オートロック付きのセキュリティー万全なマンションや、個性的なデザイナーズマンションに住みたいと言われたら困る。

「まずフローリングの、ひろーいリビングが欲しいわね」
「フローリングの広いリビング……ですか……」

 もう一度凌真の顔を見る。凌真は渋い顔をしている。
 『メゾンいざよい』は2DKだ。ダイニングキッチンの他には和室が二室。押し入れ付きで、一部屋六畳ほどだ。フローリングの広いリビングなど……ない。

「えっと、他にどうしても必要な条件はありますか?」
「できれば海をイメージした部屋に住みたいのよね。私、雪女って呼ばれてるけど、実は夏が大好きなのよ。一年中夏の気分を味わいたいわ」
「そうなんですね……」

 夏が好きな雪女――貧乏神同様、見た目であやかしを判断してはいけないのだろう。
 しかし困った。あの古い和室では夏を味わえない。リフォームでもしないと……